行暮ゆきく)” の例文
むかし旅人がみち行暮ゆきくれて、とある小社の中に仮宿すると、夜深く馬のすずの音が聞えてきて社の前に立ちどまり、こよいは何村に産があります。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
修行者しゅぎょうじゃが、こんな孤家ひとつやに、行暮ゆきくれて、宿を借ると、承塵なげしにかけた、やり一筋で、主人あるじの由緒が分ろうという処。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
商人あきうどで此のせつは立派に暮して居るけれど、若いうち一時ひとしきり困つたことがあつて、瀬戸せとのしけものを背負しょつて、方々国々を売つて歩行あるいて、此の野に行暮ゆきくれて、其の時くさ茫々ぼうぼうとした中に
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雖然けれども野路のみち行暮ゆきくれて、まへながれのおとくほど、うらさびしいものはい。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
行暮ゆきくれて一夜ひとよ宿やどうれしさや、あはかしさへたまて、天井てんじやうすゝりうごとく、破衾やれぶすま鳳凰ほうわうつばさなるべし。ゆめめて絳欄碧軒かうらんへきけんなし。芭蕉ばせをほねいはほごとく、朝霜あさしもけるいけおもに、鴛鴦ゑんあうねむりこまやかなるのみ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)