かく)” の例文
先頭に立った一人が、うやうやしく三宝を目八分に捧げて、三宝の上には何物をか載せて、その上を黄色のふくさと覚しいのでかくしている。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこを散歩して、己は小さい丘の上に、もみの木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密をおおかくすような工合ぐあいに小屋に迫っている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
兎も角も此のまま置くとは何とやら其の人の冥福にも障る様な気がしたから余は手巾を取り出し、骸骨の顔をかくし、回向えこうの心で口の中に一篇の哀歌を唱えた。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「名宝展」などの催しは、なるべく数をすくなく。交代に。低廉な観覧料で展観すべきだ。それでなければかくれた「名品」を一般に弘めると云う主旨は徹底しない。
そして、彼女等の視線は、あからめもせず、半開きにした銀扇で、横がおをかくすようにした雪之丞の、白く匂う芙蓉ふようの花のようなおもばせにそそがれているのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こずえの枝は繁りに繁ッて日の目をかくすばかり,時々気まぐれな鳩がふくれ声でいているが、その声が木精こだまに響いて、と言うのも凄まじいが、あたりの樹木に響き渡る様子
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
それから店へ行っては、鑵詰かんづめを三つと、白砂糖を一袋と赤いレザーの緒のついた麻裏あさうらを一足、すばやく風呂敷にくるんで、たもとの影にかくすようにして私をつれて家を出た。
私はそこに入つてゐる不氣味な、亡靈のやうな服をかくさうと押入をめてしまつた。こんな夜——九時——には私の居間の暗がりの中に實際それは幽靈めいたかすかな光を放つてゐた。
編笠に顔をかくして、酔つた身振の可笑をかしく、唄も歌はずに踊り行く男もある。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
取迯とりにがしては假令たとへうつたへ出るとも此身のとがまぬかれ難しことには一人旅ひとりたびとめ御大法ごたいはふなり女は善六の頼みなれば云譯いひわけたつべけれどさふらひの方は此方の落度おちどのがれ難し所詮しよせん此事はかくすにしかじと家内の者共にのこら口留くちどめしてあたりの血も灑拭ふきぬぐひ死骸は幸ひ此頃うゑし庭の梅の木を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
弥九郎が出てみると、面をかくした武家の女房らしいのが、七歳あまりの娘の手をいて立っていたが、潜戸の明くのを待兼ねてつと内へ入り、うしろざまに戸を閉めて
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)