葉鶏頭はげいとう)” の例文
旧字:葉鷄頭
それは鶏頭花けいとうかの種属ではないかと想像されますが、まだその時代には、葉鶏頭はげいとう花鶏頭はなげいとうも日本の土に輸入されてなかったはずですから
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しだいに山は深くなって、凝結した血のような野生の葉鶏頭はげいとうが、ところどころに赤い色を輝かせて窓の外を後ろへと飛び去る。
あるドライブ (新字新仮名) / 山川方夫(著)
葉鶏頭はげいとうの多い月見寺の庭を、ゆきつ、もどりつしている清澄の茂太郎は、片手に般若はんにゃめんを抱えながら、器量いっぱいの声で
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
畠は熊笹くまざさ茂る垣根ぎわまで一面のはげしい日の光に照らされ、屋根よりも高いコスモスが様々の色に咲き乱れている。葉鶏頭はげいとうの紅が燃え立つよう。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この雲の上には実に東京ではめったに見られない紺青こんじょうの秋の空が澄み切って、じりじり暑い残暑の日光が無風の庭の葉鶏頭はげいとうに輝いているのであった。
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
見る見る、錦子の耳朶みみたぶが、葉鶏頭はげいとうのような鮮紅あかさの色になって、からだをギュッと縮め、いよいよ俯向うつむいてしまった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
つまり葉鶏頭はげいとう(老少年)なる植物が私を表象している、まだこれからウントがんばれる。めでたしめでたし。
その中で一番はばをきかしていたのは、千日紅せんにちこう葉鶏頭はげいとう等の、純粋な、そして野生に近い日本草花だった。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
色づき始めた葉鶏頭はげいとうのところで激しく泣いたが、誰にもみつからないうちに涙を拭いて部屋へ戻った。
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがて夏も終りかけるころには葉鶏頭はげいとうやコスモスなどにとりかこまれた家々の間の小径を、夕陽にまぶしく照りかがやくそれらの花を生徒を眺めるようににこやかに
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
散りかゝった満庭まんていのコスモスや、咲きかゝった菊や、残る紅の葉鶏頭はげいとうや、蜂虻はちあぶの群がる金剛纂やつでの白い大きな花や、ぼうっと黄を含んだ芝生や、下葉したは褐色かっしょくしおれてかわいた萩や白樺や落葉松や
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
山を降りると田甫路たんぼみちで、田の畔には葉鶏頭はげいとうの真紅なのが眼に立った。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わちきと小町の馴れめは、そも十月の神無月かんなづき野分芭蕉のわきばしょうに秋深く、きぬうつ音も消えがての、御所のお庭は葉鶏頭はげいとう、そこの廊下の真ん中で、オットドッコイおれがいう、おれと小町の馴れ初めは
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
葉鶏頭はげいとうの濃い色が庭をのぞくたびに自分の眼に映った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうちゃん、はなじゃない、あか葉鶏頭はげいとうだよ。」
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
八月二十六日床を出でて先ず欄干にる。空よく晴れて朝風やゝ肌寒く露の小萩のみだれを吹いて葉鶏頭はげいとうの色鮮やかに穂先おおかた黄ばみたる田面たのもを見渡す。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこで調子を合わせにかかると、葉鶏頭はげいとうの多い庭先から若い娘が、息せききって駆け込んで来て
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして宅へ帰ったら瓦が二、三枚落ちて壁土が少しこぼれていたが、庭の葉鶏頭はげいとうはおよそ天下に何事もなかったように真紅しんくの葉を紺碧こんぺきの空の光の下に耀かがやかしていたことであった。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)