莞爾にこ/\)” の例文
少し此方に来たところで、向うからかねて仲好くしてゐるこの町の照子といふ娘が、莞爾にこ/\しながら歩いて来るのにぱつたり出会した。
百合子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
首に珠數じゆずけた百姓らしい中年の男女が、合乘車あひのりぐるまの上に莞爾にこ/\しつゝ、菊石あばた車夫しやふに、重さうにして曳かれて來るのにも逢つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
二人ふたりで何を話したかも覚えず、たゞ繞石ぜうせき君のしばらく散髪をしないらしい頭と莞爾にこ/\して居た顔とが目に残つて居るばかりである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
おし莞爾にこ/\顏して我家へ這入はひりしあとにお光はまたこめ淅了とぎをはり我家の中に入し頃は護國寺のかね入相いりあひつげければ其所等そこら片付かたづけ行燈あんどうに火を照し附け明るけれどくらからぬ身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
常にかわらず莞爾にこ/\はして居りますが、何うも腹のうちに憂いのあるらしく思われますは、眉のあいだになんとなく雲でもかゝっているように、うるさいという風が見えるので
動きなき下津盤根しもついはねの太柱と式にて唱ふる古歌さへも、何とはなしにつく/″\嬉しく、身を立つる世のためしぞと其しもの句を吟ずるにも莞爾にこ/\しつゝ二度ふたたびし、壇に向ふて礼拝つゝし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あさ牛乳ぎうにうんで、すゞしく、のんびりとして、なんとなく、莞爾にこ/\して一人ひとりました。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一体富豪ものもちといふものは、十人が十人石のやうに冷たい顔をしてゐるもので、平素ふだん人形や阿母おつかさんやの莞爾にこ/\した顔を見馴れてゐる子供にとつては、まるで別世界の感じがするに違ひない。
文部省の留学生某の彼を推讃したまづい歌やで一ぱいに成つた厚い手帳を出して見せ、莞爾にこ/\として得意さうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
聞中に此方は莞爾にこ/\笑ひ出し聞了つては横手をち成程々々奇々きゝ妙計めうけい必ず當るに相違なし夫なら直に金の算段さんだん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
流石さすがは若い頃江戸に出て苦労したといふ程あつて、その人をそらさぬ話し振、その莞爾にこ/\と満面にゑみを含んだ顔色かほつきなど、一見して自分はその尋常ならざる性質を知つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
店には壊れた陶器せとものが山をし、壊される端から店の女が莞爾にこ/\して新しい皿や鉢を棚に並べて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
すると、流石さすがは商売人だで、訳なく承知して呉れて、重右め、其処に行つて泊る事に為つただ。明日の朝、何んな顔をして居るかと思つたら、奴め、莞爾にこ/\と笑つて居やがる。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼の馬鹿息子ばかむすこ五郎藏は莞爾にこ/\と笑ひながらおれうれしい事がある女房お秀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし、それはその女を主としての話ではなしに、その長春の事務所長をしてゐるS氏の話が出た時に、Bは画家らしいのんきな調子で、莞爾にこ/\と笑ひながら言つたのであつた。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
髮を棕櫚箒のやうにした山のかみさんが、「そんなことを言つたつて、中々掘るが難儀だでな……」などと言つて、白い衣を着た莞爾にこ/\した老僧と相對してゐるさまは到る處で見懸けた。
日光 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
本当とも……総左衛門どんの家の角の処で、莞爾にこ/\笑ひながら見てけつかるだ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
したが、黙つて莞爾にこ/\と笑はしやつた。えらくせなすつたな。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
此方に歩を運びつゝ、莞爾にこ/\しながらKは言つた。
島からの帰途 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
Tは莞爾にこ/\して近寄つて来た。
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)