茶漬ちゃづけ)” の例文
庄造も、母親も、今津へ出かけたきり帰らないので、一人ぼっちでお茶漬ちゃづけっ込んでいると、その音を聞いてリリーが寄って来る。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夕ばえ近い町を、伝六は左へ、名人は右へ、——お奈良なら茶漬ちゃづけ宇治料理とかいたのれんが、吸いこむように右門の姿をかくしました。
猟はこういう時だと、夜更よふけに、のそのそと起きて、鉄砲しらべをして、炉端ろばた茶漬ちゃづけっ食らって、手製てづくりさるの皮の毛頭巾けずきんかぶった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右側はやっこ天麩羅てんぷらといって天麩羅茶漬ちゃづけをたべさせて大いに繁昌をした店があり、直ぐ隣りに「三太郎ぶし」といった店があった。
千住せんじゅの名産寒鮒かんぶなの雀焼に川海老かわえび串焼くしやき今戸いまど名物の甘い甘い柚味噌ゆずみそは、お茶漬ちゃづけの時お妾が大好物だいこうぶつのなくてはならぬ品物である。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
明治開化かいか爆笑王ばくしょうおうステテコの円遊えんゆうも、かゝる雪のかれの言の葉を以てせば「御膳上等」なる宇治にお茶漬ちゃづけサク/\とかつこみし事ならむか。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
茶漬ちゃづけで夜食をすまし、翌朝割引電車で、錦糸堀きんしぼりの家へ帰ると、昨夜もらった手付かずの三十円をそっくり母親に渡した。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さ、沢庵たくあんかなんかでざくざく茶漬ちゃづけにしてっこむのが好きさ、やわっこいめしだのおじやなんぞ大っきらいさ、だからぱあっと心中しちゃう気になったのよ
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私も進まぬ朝飯を茶漬ちゃづけにして流しこんだ後は口も利かずに机にもたれて見たくもない新聞に目を通していた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
茶漬ちゃづけでも食べて、そろそろ東光院へ往かずばなるまい。おあさまにも申し上げてくれ
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
御好意は分りますが、しかし、いくら自由にと言われても、帝鑑ていかんで昼寝をしているわけには行かず、鏡の欠伸あくびもできず、評定の間でお茶漬ちゃづけをたべているわけにもまいりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日は母も清三も寝過ねすごしてしまった。時計は七時を過ぎていた。清三はあわてて茶漬ちゃづけをかっ込んで出かけた。いくら急いでも四里の長い長い路、弥勒みろくに着いたころはもう十時をよほど過ぎた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
西洋料理を食べに行くとか日本の料理屋へ上るとかいうのも多くは主人とその友達位で、妻君は留守番をさせられるのみか家にいて香物こうのものでお茶漬ちゃづけだ。よくあんな事をして主人の心が平気でいられるね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
わたくしはお雪さんが飯櫃おはちを抱きかかえるようにして飯をよそい、さらさら音を立てて茶漬ちゃづけ掻込かっこむ姿を、あまり明くない電燈の光と、絶えざる溝蚊どぶかの声の中にじっと眺めやる時
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今行ったかと思うと、すぐ後口がかかり、箱丁はこやもてんてこまいしていたが、三時ごろにやっと切りあげ、帰ってお茶漬ちゃづけを食べて話していると、すぐに五時が鳴り、やがて白々明けて来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
午後ひるすぎから亀井戸かめいど竜眼寺りゅうがんじの書院で俳諧はいかい運座うんざがあるというので、蘿月らげつはその日の午前に訪ねて来た長吉と茶漬ちゃづけをすましたのち小梅こうめ住居すまいから押上おしあげ堀割ほりわり柳島やなぎしまの方へと連れだって話しながら歩いた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)