芳年よしとし)” の例文
じゃこの芳年よしとしをごらんなさい。洋服を着た菊五郎と銀杏返いちょうがえしの半四郎とが、火入ひいりの月の下で愁嘆場しゅうたんばを出している所です。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旅商人も、小娘も、芳年よしとしの繪にでもありさうな景色なのに、突然舶來の色彩が滲んで來たやうで吸取紙は似合はなかつた。
○「いえ、そら久しい以前あと絵に出た芳年よしとしいたんで、鰐鮫わにざめを竹槍で突殺つッころしている、鼻が柘榴鼻ざくろッぱなで口が鰐口で、眼が金壺眼かなつぼまなこで、えへゝゝ御免ねえ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
戦争の後ですから惨忍な殺伐なものが流行り、人に喜ばれたので、芳年よしとしの絵にうるしにかわで血の色を出して、見るからネバネバしているような血だらけのがある。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
国芳の門人中(芳幾よしいく芳年よしとし芳虎等)明治にりてなほ浮世絵の制作をつづけしものすくなからざれども
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芳年よしとしの月百姿の中の、安達あだちヶ原、縦絵二枚続にまいつづき孤家ひとつやで、店さきには遠慮をするはず、別の絵を上被うわっぱりに伏せ込んで、窓の柱に掛けてあったのが、暴風雨あらしで帯を引裂いたようにめくれたんですね。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男は芳年よしとしの書いた討ち入り当夜の義士が動いてるようだ。ただ自分が彼らの眼にどう写るであろうかと思うと、早く帰りたくなる。自分の左右前後は活動している。うつくしく活動している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ロージングの好んで歌う曲目は、泥の中から生れた、ロシア農奴のうどの陰惨極まるうごめきの声であり、その表現はこの上もなく晦渋かいじゅうで、そして芳年よしとしの絵に見るような、嗜虐的な陰惨さを持ったものだ。
芳年よしとしの三十六怪選の勇ましくも物恐ろしい妖怪変化ようかいへんげの絵や、三枚続きの武者絵に、乳母うばや女中に手をかれた坊ちゃんの足は幾度もその前で動かなくなった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私はさっきあの芳年よしとしの浮世絵を見て、洋服を着た菊五郎から三浦の事を思い出したのは、殊にその赤い月が、あの芝居の火入ひいりの月に似ていたからの事だったのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二世国貞にせくにさだ国周くにちか芳幾よしいく芳年よしとしの如き浮世絵師がさかんその製作を刊行したのも自然の趨勢であらう。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
年は私と同じ二十五でしたが、あの芳年よしとしの菊五郎のように、色の白い、細面ほそおもての、長い髪をまん中から割った、いかにも明治初期の文明が人間になったような紳士でした。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分は春信はるのぶ歌麿うたまろ春章しゆんしやうや其れよりくだつて国貞くにさだ芳年よしとしの絵などを見るにつけ、それ等と今日の清方きよかた夢二ゆめじなどの絵を比較するに、時代の推移は人間の生活と思想とを変化させるのみならず
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一立斎いちりゅうさい広重をつぐに二代また三代目広重あり。国貞ののちには二代目国貞(明治十三年歿)、五雲亭貞秀ごうんていさだひで豊原国周とよはらくにちか(国周は二代国貞門人)らあり。国芳の門下には芳虎よしとら芳年よしとし芳宗よしむね芳幾よしいくら残存せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
劇壇において芝翫しかん彦三郎ひこさぶろう田之助たのすけの名を挙げ得ると共に文学には黙阿弥もくあみ魯文ろぶん柳北りゅうほくの如き才人が現れ、画界には暁斎ぎょうさい芳年よしとしの名がとどろき渡った。境川さかいがわ陣幕じんまくの如き相撲すもうはそのには一人もない。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
劇壇において芝翫しかん彦三郎ひこさぶろう田之助たのすけの名を掲げ得ると共に、文学には黙阿弥もくあみ魯文ろぶん柳北りゅうほくの如き才人が現れ、画界には暁斎きょうさい芳年よしとしの名がとどろき渡った。境川さかいかわ陣幕じんまくの如き相撲はその後には一人もない。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)