芥箱ごみばこ)” の例文
聞分ききわけもなく織次がそのたもとにぶら下った。ながしは高い。走りもとの破れた芥箱ごみばこ上下うえしたを、ちょろちょろと鼠が走って、豆洋燈まめランプ蜘蛛くもの巣の中にぼうとある……
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の手では人の往来ゆききのかなり激しい道のはたにも暗くならぬうちから、下町では路地の芥箱ごみばこから夜通し微妙な秋の曲が放送せられる。道端や芥箱のみではない。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そく仕方しあげたに教育せられ薫陶くんとうせられた中から良妻賢母れうさいけんぼ大袈裟おほげさだがなみ一人前の日本にほん婦人が出て来るわけなら芥箱ごみばこの玉子のからもオヤ/\とりくわさねばならない
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
群衆へ向かって話しかける石金の足もとへ、心きいた誰かが、横合いの芥箱ごみばこを引きずり出してきて
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
君、ちょいとその紳士ムッシュウ。君はいま、あたしの車を touf-toufぼろじどうしゃ だといったね。ぼろだって芥箱ごみばこだって大きなお世話だよ。君の自動車を持って来てごらんなさい。
いまは、あのように街路で無心のふうを装い、とるに足らぬもののごとくみずから卑下して、芥箱ごみばこのぞきまわったりなどしてみせているが、もともと馬を斃すほどの猛獣である。
野良犬やバタ屋が芥箱ごみばこをあさっているほかに人通りもなく、しーんと静まりかえった中にただ魚のはらわたの生臭い臭気が漂うている黒門市場をとぼとぼうなだれて行くのだが
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
露次の方に、荷車の音がして、垣のところの芥箱ごみばこの蓋があく音がする。塵取人夫の来ていることは、その音でもわかる。窓に面した六畳の方で、妻の立上って、台所へ行く気配がする。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
芥箱ごみばこの残飯にもありつけねえのが、こうして結構な五もくのお余りにありつくというのは、これというもみんな親分の恵み、そこんとこはひとつ安直兄いからよろしくおとりなしを頼みますぜ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芥箱ごみばこを探り 街路にうつむいている
手をさし延べよう! (新字新仮名) / 陀田勘助(著)
「裏の芥箱ごみばこに捨てました」
それがこちらを睨んだように思われたので周章あわてゝ戻ろうとして足元の芥箱ごみばこつまずくと、それに驚いて屋根へ駈登った白斑しろぶちの猫に、かえって貞之進の方が驚かされた。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
こんなものは誰れも持って行くまいと安心して、市場の前の庭へ投げ出して置いたのが悪かったのだ。芥箱ごみばこであれ touf-touf であれ、あれはわれわれの財産だ。
路地は人ひとりやっと通れるほど狭いのに、大きな芥箱ごみばこが並んでいて、寒中でも青蠅あおばえはねならし、昼中でもいたちのような老鼠ろうねずみが出没して、人が来ると長い尾の先で水溜みずたまりの水をはねとばす。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
野良犬のらいぬや拾い屋(バタ屋)が芥箱ごみばこをあさっているほかに人通りもなく、静まりかえった中にただ魚の生臭なまぐさ臭気しゅうきただようている黒門市場の中を通り、路地へはいるとプンプン良いにおいがした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
芥箱ごみばこの上なんかで遊んでいないで早く上がって来うい」