肱掛椅子ひじかけいす)” の例文
ジャンナン氏は肱掛椅子ひじかけいすにすわり、事務机の上にぐったりとなって、血にまみれていた。その血はまだゆかにぽたぽたたれていた。
出入り口の近くに、インキつぼの置いてある大きな卓があって、上には雑多な紙や分厚な書物がのっていた。卓の前に藁の肱掛椅子ひじかけいすがあった。
以前彼女はお父さんが大好きだったが、そのお父さんも今では病気になって、暗い部屋の肱掛椅子ひじかけいすに坐り込んだなり、苦しそうに息をしている。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私はあらたにまきをくべました。そして、わきを見ると、正夫は肱掛椅子ひじかけいすの上に、うとうとと眠っていました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ちょうど戸口のところには、テーブルと同じように曲った狗児こいぬの足のような脚の、り掛かりの高い、鞣皮なめしがわで張った肱掛椅子ひじかけいすに、この家の主人が腰をかけている。
鐘塔の悪魔 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
大屋敷にはきっと、むくむくした肱掛椅子ひじかけいすや、寝椅子ソファーがあるに違いないわ。あの紅い壁紙の色だって、大屋敷の人達のように温かで、親切そうで、幸福そうに見えるわ。
訪客と主人を加えて、丁度四脚の肱掛椅子ひじかけいすが、部屋の中央にまるく並べられた。それは客のだれの眼にも、猫がよく見える位置を選んで、彼女がわざとそうしたのであった。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
肱掛椅子ひじかけいすのまま会場に運ばれたハイドンは、演奏の進行と共に、次第に昂奮こうふんが加わり、「そこに光ぞ現れける」の一節に至ると、感激のあまり立ち上って天の一角を指し
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
和服姿で肱掛椅子ひじかけいすにかけたところは、博士はいかにもどっちりした素朴そぼくな中年の紳士であった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
隣の寝室へかつぎ込んだが、寝台の上へ横になることができなくて肱掛椅子ひじかけいすにもたれたままだったそうです。椅子いすの横の台の上には薬びんと急須きゅうすと茶わんとが当時のままに置いてあります。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
売ってもいそうな肱掛椅子ひじかけいす反身そりみ頬杖ほおづえ
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女のかけている肱掛椅子ひじかけいすも気にくわなくなり、すんでのことで彼女をもらうところだった過去の記憶にも何やら気にくわぬものが出来てきた。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あけた窓、しめた窓、暖炉のすみ、肱掛椅子ひじかけいす普通なみの椅子、床几しょうぎ、腰掛け、羽蒲団はねぶとん、綿蒲団、藁蒲団わらぶとん、何にでもきまった金をかけておくことだ。
ひまな連中で、意志もなく、目的もなく、存在の理由をも有せず、勉強の机を恐れ、自分一人になるのを恐れ、肱掛椅子ひじかけいすにいつまでもすわり込み
戸の前に、農夫用の肱掛椅子ひじかけいすである車輪付きの古い椅子に腰掛けて、白髪の一人の男が太陽を見てほほえんでいた。
アントアネットは家にただ一つの肱掛椅子ひじかけいすにすわり、オリヴィエはその足先の腰掛にすわって、いつものように大きな駄々だだとして愛撫あいぶされていた。
『まあ、一ときそうして泣くがいい。おれはその間にひと坐りしよう』と彼は考え、肱掛椅子ひじかけいすに腰をおろした。
そして肱掛椅子ひじかけいすにしどけなく身をよせかけて、まわりを取り巻いてる将校らに声高く話していた。会合はにぎやかだった。皆はすこぶる愉快そうだった。
天井や鏡板かがみいたについてる画題は、小さくして肱掛椅子ひじかけいすにも施されていた。またその寝台は、コロマンデル製のラック塗りの大きな九枚折り屏風びょうぶで囲まれていた。
クンツは肱掛椅子ひじかけいすにぐったりとすわった。ちょっと一眠りしたいほどだった。シュルツは午前中の興奮とまた祝杯の酔いのために、足がよろよろしていた。
室にはいって来るや、何らの怨恨えんこんも憤りも軽侮も含まない目付きで、マドレーヌ氏の前に身をかがめ、それから市長の肱掛椅子ひじかけいすの後ろ数歩の所に立ち止まったのだった。
メルキオルは肱掛椅子ひじかけいすり返っていたので、身をかわすすきがなかった。子供はその喉元のどもとをつかんで叫んだ。
ハルトウェルのもみのテーブルは、ルイ十四世式の百合ゆり花模様の肱掛椅子ひじかけいすの前に据えられた。
彼女は、火の消えた暖炉のそばの肱掛椅子ひじかけいすにすわって、ひっそりした中で静かに話しつづけるほうを望んだ。
亭主が出て行くと、肱掛椅子ひじかけいすにすわってしばらく考え込んだ。
クリストフは書物を開いて、明るみのほうへ背を向けて肱掛椅子ひじかけいすにすわり込んだが、別に読むでもなかった。
彼女は肱掛椅子ひじかけいすの腕木に片肱をつき、身体を少しかがめ、手先で頭をささえて、怜悧れいりなしかも心を他処よそにした微笑を浮かべながら、人々の話に耳を貸していた。
美しい肱掛椅子ひじかけいすにすわったり、美しい衣服にさわったりすると、口には出さないが非常な喜びを感じた。
それからまた肱掛椅子ひじかけいすに事もなげにすわった。通りかかりの召使を小声に呼んで、一枚の名刺を渡した。そして、何事も起こらなかったかのように話をつづけた。
クリストフはジョルジュが来る前からすわっていた肱掛椅子ひじかけいすのところへ行ってまたすわった。窓ぎわで椅子の背に頭をもたせて、正面の屋根並みや夕映えの空をながめた。
二人の後ろで、暖炉のそばの低い肱掛椅子ひじかけいすにすわって、ブラウンは雑誌を読んでいた。三人とも黙っていた。庭の砂の上に、間を置いてばらばらと降る雨の音が聞こえていた。
ルイ十五世式の非常にりっぱな机は、「新式」の肱掛椅子ひじかけいす数個と多彩の羽蒲団はねぶとんが山のように積んである東方式の安楽椅子とに、取り囲まれていた。扉には鏡が飾りつけてあった。
で彼は多少の金を、半ばは借り半ばは個人教授で手に入れて、それで屋根裏の室を一つ借り、姉の寝台やテーブルや肱掛椅子ひじかけいすなど、取り留め得られるだけの器具をすべてつめ込んだ。
小娘らしいふりをよそおって、船底肱掛椅子ひじかけいすでいつまでも身体を揺り、「どう、そんなのないの?」などと小さな叫び声をたて、食卓で自分の好きな料理が出ると、両手をたたき、客間では
彼はまた呼鈴を鳴らして、クリストフとの間に約束してる特別の仕方でとびらをたたいた。肱掛椅子ひじかけいすの動く音がして、ゆるやかな重々しい足音の近づくのが聞こえた。クリストフは扉を開いた。
肱掛椅子ひじかけいす仰向あおむけによりかかり、いつまでもできあがらない仕事を膝の上にのせ、自分自身の考えに微笑ほほえんでいた——なぜなら、どんな書物であろうと、その奥底に彼女が見出すところのものは
隠れ場所にいるような気持が感ぜられた。クリストフは窓のそばに大きな肱掛椅子ひじかけいすにすわって、膝の上に書物をひらいていた。插絵さしえの上に身をかがめて、うっとりと見とれていた。日は傾いていった。
肱掛椅子ひじかけいすの前で踊っていた時の歌だ。……みてごらん。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
肱掛椅子ひじかけいすの前で踊っていたものだ。……ご覧。