まれ)” の例文
大抵は無愛想なような、人の善さそうな爺さん連で、若い顔はまれであるが、彼等は日が暮れると、各自の箱に錠を卸して帰ってしまう。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
ボルゲエゼの別墅べつしよに婚禮あり。世にまれなるべき儀式を見よ。この風説は或る夕カムパニアなるドメニカがあばら屋にさへ洩れ聞えぬ。
然し首の習作エテユド・デ・テエトのモデルとして見る場合には又別種の面白味がある。ロダンの「泣く女ラ・プレエレエズ」のやうな表情はまれならず遭遇する所である。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
信仰の行者を除くの外、昼も人跡まれなれば、夜に入りてはほとんちかづくものもあらざるなり。その物凄き夜をえらびて予はことさらに黒壁に赴けり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ來りてこの報知しらせを聞く者甚だまれなり、高く飛ばんために生れし人よ、汝等すこしの風にあひてかく墜ちるは何故ぞや 九四—九六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
われその頃外国語学校支那語科の第二年生たりしがひとばしなる校舎におもむく日とてはまれにして毎日飽かず諸処方々の芝居寄席よせ
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一八八三年四版グリフィスとヘンフレイの『顕微鏡学字彙ゼ・ミクログラフィク・ジクショナリー』六二三頁に、英国にただ一種いとまれに生ず、外国にはその一種を染料とすとあると述べ置く。
儕輩の詩人皆多少憂愁の思想を具へたれど、厭世觀の理義彼に於ける如く整然たるはまれなり。衆人徒に虚無を讚す。彼は明かに其事實なるを示せり。其詩は智の詩なり。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ところが、三日目から次第に客が減じて行き、来客平均十人程度で、売りあげが五円に達した日はまれだ。一日毎に、心細くなった。しかし、米櫃の米は遠慮なく減って行く。その筈である。
烏恵寿毛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
はやくより史を編むにこころざしあり、されど書のちようすべきものまれなり。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間にまれに一人位幸福な奴があったと云うことを
一の惡しき木その蔭をもてすべてのクリスト數國をおほひ、良果よきみこれより採らるゝことまれなり、そも/\我はかの木の根なりき 四三—四五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
枕山の詩賦には毎篇酒の一字を見ざるはまれである。この年枕山は「酒痴歌」と題する長句を作って梅痴上人に示した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
魂を彼のミケランジエロが世にまれなる丹青の力もて此堂の天井と四壁とに現ぜしめたる幻界に馳せたり。
先生はまれに見る訥弁であつた。巧言令色には凡そ無縁の仁者であつた。而も先生の演説のまずさ加減が世の常の雄弁にもまして敬愛されてゐたのだから愈〻貴かつた。
浜尾新先生 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
儕輩さいはいの詩人皆多少憂愁の思想をそなへたれど、厭世観の理義彼に於ける如く整然たるはまれなり。衆人いたづらに虚無を讃す。彼は明かにその事実なるを示せり。その詩は智の詩なり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ある人の曰く、およそ山中広野を過ぐるに、昼夜を分たず心得あるべし、人気まれなる所で、天狗魔魅の類、あるいは蝮蛇を見付けたらば、逃げ隠るる時、必ず目を見合すべからず。
いま、東京から以東に鬼怒川の鮎だけの香気を持っている鮎を産する川はまれである。私は、今年は初めて鬼怒川の鮎を食べて香気らしいものを感じたのであった。だが、腹に砂があるのが欠点だ。
秋の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今日ここに言うべき必要あるは、そのかつて劇場にきたる事の何故にまれであったかという事よりも、今にわかに来り看る事の何故頻繁になったかにあるであろう。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
父よ、皇帝チェーザレまたは詩人のほまれのためにまるゝことのいとまれなれば(人の思ひの罪と恥なり) 二八—三〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
けだし馬ほど生殖力の限られた動物まれなり、故に時を定めてのみ遊牝せしむ云々。熊楠いわく、米国インジアンまたこの類で、他の諸民族に比し、交会の数甚だ少なしとしばしば聞く。
イクバクモナクシテ都ニ入ル。坎坷かんか不遇。後ニ太政官だいじょうかんニ出仕シ、官ニアルコト十余年、明治庚寅こういん病ヲ以テほろブ。詩稿散佚さんいつシ流伝スルモノはなはまれナリ。余多方ニ捜羅そうらシ僅ニ数首ヲ得タリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それより前に欧州人が実物を見る事極めてまれだったから、虎が餌を捕うるため跳るはやさをペルシアで箭の飛ぶに比べたのを聞き違えてかプリニの第八巻二十五章にこんなことを述べて居る。
〔人の思ひの〕人、俗情に役せられ、かゝる榮冠をうるにいたること甚だまれなり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
少時間すこしのまで早く物を煮得る鍋を、宝物に数えたり、秀郷の子孫に限り、陣中女房を召し仕わざる由を特書したので、くだんの竜宮入りの譚は、早鍋世に極めてまれに、また中古の欧州諸邦と等しく