いましめ)” の例文
「捕われるのですとも。縄が新しくなると、当分当りどころが違うから、いましめを感ぜないのだろうと、僕は思っているのです」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼すなはち答へて曰ふ、汝はこゝより近き處にアンテオを見ん、彼語るをえて身にいましめなし、また我等を凡ての罪の底におくらん 一〇〇—一〇二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
胸をせめて袖をかさねた状は、慎ましげに床し、とよりは、悄然しょうぜんと細って、何か目に見えぬいましめの八重の縄で、風になびく弱腰かけて、ぐるぐると巻かれたよう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菊之丞としては出來ないことが三太郎として出來るやうになつたのである。——併し之はいましめの繩が少し緩んだ位に過ぎない。三太郎は更に一層の自由を望んでゐる。
三太郎の日記 第一 (旧字旧仮名) / 阿部次郎(著)
ん年の夏の炎熱が、あの日本北アルプスのいましめの、白い鎖を寸断して、自由に解放するまで、この山も、石は転び次第、雲は飛び放題、風は吹きすさぶなりに任せて
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
急いで駈付けると、パータリセはいましめをすっかり脱し、巨漢ラファエレにつかまえられている。必死の抵抗だ。五人がかりで取抑えようとしたが、狂人は物凄い力だ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
殊に夜風が一下ひとおろしして、煙が向うへ靡いた時、赤い上に金粉を撒いたやうな、焔の中から浮き上つて、髮を口に噛みながら、いましめの鎖も切れるばかり身悶えをした有樣は
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
縛られる時か、縛られた後、いましめをとろうともがいた為か、両手首の皮膚に擦過傷が見られ、なお咽喉にまきつけられた紐の為に、その皮膚にもいくらかかすり傷が認められました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
然るにこの狭苦しい冷たい一室では、夫は恐ろしい罪名の許に背後にいましめの縄を打たれて、悔悟の涙に咽び、妻はしとねさえない板敷に膝を揃えて坐ったまゝ、不遇な運命に泣いているのだ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
伊右衛門はいきなり小平を引きずり出して、いましめを解き猿轡をった。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
五月の夜石舟にゐて思へらく湯の大神のいましめを受く
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
泉原は素早く馳寄かけよって女のいましめを解いた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
さあ、これで宝のいましめを解く時が来た。
因襲というのは、そのいましめが本能的で、無意識なのです。新人が道徳で縛られるのは、同じいましめでも意識して縛られるのです。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
殊に夜風が一下ひとおろしして、煙が向うへ靡いた時、赤い上に金粉をいたやうな、焔の中から浮き上つて、髪を口に噛みながら、いましめの鎖も切れるばかり身悶えをした有様は
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と一生懸命、もすそを乱してげ出づれば、いましめの縄の端を踏止められて後居しりいに倒れ
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下界のいましめを遁れて
それはこれまで抑え抑えて来た慾望のいましめを解く第一歩を踏み出そうと云う、門出かどでのよろこびの意味で、tête-à-têteテタテト はそれには第一要件になっていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「私はくろがねくさりいましめられたものを見た事がございまする。怪鳥に惱まされるものゝ姿も、つぶさに寫しとりました。されば罪人の呵責に苦しむ樣も知らぬと申されませぬ。又獄卒は——」
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
下女が鰻飯うなぎめしどんぶりを運び出す。方々で話声はちらほら聞えて来るが、その話もしめやかである。自分自分で考えることを考えているらしい。いましめがまだ解けないのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「私はくろがねくさりいましめられたものを見た事がございまする。怪鳥に悩まされるものゝ姿も、つぶさに写しとりました。されば罪人の呵責かしやくに苦しむ様も知らぬと申されませぬ。又獄卒は——」
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
古賀の獣は縛ってあるが、おりおりいましめを解いて暴れるのである。しかし古賀は、あたかも今の紳士の一小部分が自分の家庭だけを清潔に保とうとしている如くに、自分の部屋を神聖にしている。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)