網膜もうまく)” の例文
クーパーの網膜もうまくに、キラ、キラ、キラと星が散った。そして急にあたりがぼーっと見えなくなった。怪物の足が小またをすくいあげた。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その結果が網膜もうまくを刺激しようが、連想を呼び起そうがいっこう構わんので、必竟ひっきょうずるに彼の興味は色彩そのものに存するのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そもそもまだ覚一も小法師の頃から、彼の、黒い網膜もうまくに映じていたこの国の内乱と諸相しょそうは、彼の琵琶にもつよい影響を与えずにいなかった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき、やはり、心持ちくちをあけてみていた、あなたの小さい黄色い顔が、ちらっとぼくの網膜もうまくかすめました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
こしをおろしたみじかい草。かげろうか何かゆれている。かげろうじゃない。網膜もうまくかんじただけのその光だ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ぽうっと仄白ほのじろ網膜もうまくに映じた彼にはそれが繃帯とは思えなかったつい二た月前までのお師匠様の円満微妙な色白の顔がにぶい明りのけんの中に来迎仏らいごうぶつのごとくかんだ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いま、この忌中札を凝視みつめて放心ぼんやり立っている頼母の網膜もうまくに、あの、元旦の殿中の騒ぎが浮び上って来た。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
黒味に適する色とはいかなる色かというに、プールキンエの現象によって夕暮に適合する色よりほかには考えられない。赤、橙、黄は網膜もうまく暗順応あんじゅんのうに添おうとしない色である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
ほんの一刹那ではあったけれど、彼の網膜もうまくはそれを捉えた。二つの目が、ガラス戸の外から覗いていたのだ。姿は闇に隠れて、ただ二つの目だけが、室内の光にキラキラと光って見えた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
目にもとまらぬほど速く動き、あるいは回転し、あるいはまた震動するものが、人間の網膜もうまくにうつらないということはほんとうだ。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、その明るい光線を横ぎって、身体からだをすぼめ、こしを降ろした、あなたの黒い影が、焼きつくように、ぼくの網膜もうまくに残っていました。あなたは、随分ずいぶんやつれていた。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
何か、冷たい手にでも撫でられたような気がして、ふと、眼をあけると、うつつな、渋い網膜もうまくに、大きな人影が映った。しぼりの手拭で、頬冠ほおかむりをして、壁の下を、這ってゆくのであった。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中の一人の婦人の顔が、浩一の網膜もうまくに焼きついて来た。髪を西洋人のような形にした、美しい洋装の人であった。彼がまだ悪事を働かない前、やはり銀座で、行きずりに三度会ったことがある。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
更に空中よりは、ものすごい数量にのぼる巨大爆弾が、釣瓶打つるべうちに投下され、天地もくずれんばかりの爆音が、耳を聞えなくし、そして網膜もうまくの底を焼いた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そんなわけだから、一眼いちがんになって異常な視神経の発達により、普通の人には到底とうてい見えない赤外線までが、アリアリと彼女の網膜もうまくにはえいずるようになったのだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(で、これは早く三曲線の意味を呑みこまないと、先生に対して申訳ない——申訳ないらしい)と丘助手は一生懸命に理解しようと、三曲線をその網膜もうまくに送りこんでいる。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
照準手と、測合手そくごうしゅとは、対眼鏡アイピースから、始めて眼を離した。網膜もうまくの底には、赤くゼロと書かれた目盛が、いつまでも消えなかった。少尉はスタスタと、社殿しゃでんわきへ入って行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元の暗闇が帰って来たけれど、皆の網膜もうまくには白光が深くみこんでいて、闇黒あんこくがぼんやり薄明るく感じた。スクリーンの前では雁金検事が、しきりに眼をしばたたいていた。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ興奮に青ざめていたような神田仁太郎と呼ばれた若い方の男——帆村はそれをぼんやりと見送っているような顔付をしていたが、その実、彼の全身の神経は、網膜もうまくの裏から
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの若き婦人の肢体したい網膜もうまくの奥にきつけられたようにいつまでも消えなかった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どうも君の網膜もうまくのうしろに僕の眼をやってみることも出来ないからネ」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)