さかずき)” の例文
大人は、自分には二度まで夫人を殺しただけ、さかずきの数の三々九度、三度の松風、ささんざの二十七度で、婚姻の事には馴れてござる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細君の心を尽した晩餐ばんさんぜんには、まぐろの新鮮な刺身に、青紫蘇あおじその薬味を添えた冷豆腐ひややっこ、それを味う余裕もないが、一盃いっぱいは一盃とさかずきを重ねた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そしてこの水仙すいせんの花を、中国人は金盞銀台きんさんぎんだいと呼んでいる。すなわち銀白色の花の中に、黄金おうごんさかずきっているとの形容である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ここで買った白碗は、茶道の方で「ますはかり」と呼ぶものの親属なのだが、朝鮮では今も濁酒にごりざけ(マッカリ)のますであると同時にさかずきなのである。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
柳吉が遊蕩に使う金はかなりの額だったから、遊んだあくる日はさすがに彼も蒼くなって、さかずきも手にしないで、黙々と鍋の中を掻きまわしていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
と云いながら上へあがり、是から四方山よもやまの話を致しながら、春見は又作にさかずきを差し、自分は飲んだふりをして、あけては差すゆえ、又作はずぶろくにいました。
「ちょうど微酔の気はあり、夜は更けて静か。そぞろ私も何か低吟をそそられています。——どうかご両所ともさかずきをかさねながら、座興としてお聴きください」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その軸物におりおり眼をやって、さかずきをふくむ。酒を飲んでくつろげばくつろぐほど胸元むなもとがはだけて、そこから胸毛をのぞかせる。それぐらい花袋かたいふとっているのである。
晩酌ばんしゃくぜんに向った父は六兵衛ろくべえさかずきを手にしたまま、何かの拍子にこう云った。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四種の葡萄酒をついだ四つの銀のさかずきを献ずるのであった。
何やかやで、蝶子は逆上した。部屋のガラス障子にさかずきを投げた。芸者達はこそこそと逃げ帰った。が、間もなく蝶子は先刻の芸者達を名指しで呼んだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
立身上たちみあがりに、さかずきを取って投げると、杯洗はいせんふちにカチリと砕けて、さっかけらが四辺あたりに散った。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、さかずきをあげ合った。けるほどに、月は冴えを増し、露はたまかつらにちりばめ、主客の歓は尽きるところがない。談笑また談笑のくごとに、一の酒はからになるやと思われた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さかずきをかわして、仰いで飲む。廻廊の燈籠一斉にともり輝く。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と曹操と陳登は、さかずきをあげて、誓いの眸を交わした。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おさかずき。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)