白髯しらひげ)” の例文
白髯しらひげわたし。……隅田川に残っているたった一つの渡しである……といっても、それとて、むかしのまんま残ってはいないのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
私は初めて気がつきました。染めていた下から白いのが生えて来たのです。頬は剃っていたから自然のままに白髯しらひげが伸びたのです。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
白髯しらひげ神社は武蔵野に多く散在しているが、一番有名なのは向島の白髯サマであろう。しかし白髯明神の総本家はコマ神社と云われている。
「それは御苦労。わたしは墓参で白髯しらひげの辺まで行く。屋敷を遅く出たので、帰りは日が暮れるかも知れない。寺の遠いのは少し難儀だな……」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白髯しらひげ土手どてあがるがはやいか、さあたすからぬぞ。二人乘ににんのり小官員こくわんゐんえた御夫婦ごふうふ合乘あひのりなり。ソレをそねみはつかまつらじ。きはいたさじ、なんともまをさじ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ハイ、胸に白髯しらひげを垂れ、身にくずの衣裳を着け、自然木じねんぼくの杖を突きましたところの、異相の老人にございます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その下から現われたのは、読者も大方推察されていた通り、名探偵三笠龍介氏の白髪頭と白髯しらひげとであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「千蛾も共に、御成功をお祈り申しあげまする」と、かんむりひものように、老人の白髯しらひげの先は膝につきました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
碩学せきがく大家どもと、彼らの白髪しらが白髯しらひげは、豪雨と、暴風の、鳥獣の苦悶くもんと、人民の失望と、日光の動揺と植物の戦慄せんりつと、鉱石の平伏といっしょに、宇宙へ四散した。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
やがて、靄の底から、ぼんやり現われたのは、立派な白髯しらひげはやした、紅毛のおじいさんでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
前へ行くその人は、六十近い、白髯しらひげの人で、後方うしろのは供人であろうか? 肩から紐で、木箱を腰に垂れていた。二人とも、白い下着の上に黄麻を重ね、裾を端折はしょって、紺脚絆きゃはんだ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
見れば白髯しらひげの老父は大きな鼈甲の眼鏡をかけて、次の間の書齋一面に廣げた唐紙たうしの上に、太い筆で大きな象形文字を書いて居られた。村の富豪から依頼されたのだと云ふ事である。
新帰朝者日記 拾遺 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
如意にょい片手に、白髯しらひげ長きこの老僧が、あらたまって物語る談話はなしを聞けば
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
白の支那服の、白髪しらがの、白髯しらひげの、和製タゴール老人の姿も見えた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
さながら通り魔のやうに白髯しらひげのあたりまで漕ぎ上つたのです。
白髯しらひげの議員は左から歎願した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
玄關からは上らずに柴折戸しをりどを潜つて庭へ這入ると、鼈甲の大きな老眼鏡をかけた父は白髯しらひげを撫でながら、縁側の日當りに腰をかけて唐本たうほんを讀んで居られたが、自分の姿を見ると、何より先に
新帰朝者日記 拾遺 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
白髯しらひげ長かる父の目はひて端然たんねんすに月押し照りき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
私は向島むかうじま三囲みめぐり白髯しらひげに新しく橋梁の出来る事を決して悲しむ者ではない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は向島の三囲みめぐり白髯しらひげに新しく橋梁の出来る事を決して悲しむ者ではない。