白毫びゃくごう)” の例文
二人はそれを伏し拝んで、かすかな燈火ともしびの明りにすかして、地蔵尊の額を見た。白毫びゃくごうの右左に、たがねで彫ったような十文字のきずがあざやかに見えた。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我今まで恋とう事たるおぼえなし。勢州せいしゅう四日市にて見たる美人三日眼前めさきにちらつきたるがそれは額に黒痣ほくろありてその位置ところ白毫びゃくごうつけなばと考えしなり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が、その眉間みけん白毫びゃくごう青紺色せいこんしょくの目を知っているものには確かに祇園精舎ぎおんしょうじゃにいる釈迦如来しゃかにょらいに違いなかったからである。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「……身につけている蛮衣はなんだ、螺髪らほつとはなんだ、眉間みけん白毫びゃくごうとはそもそもなんだ、なんじはいずれの辺土から来た頓愚だ、云え、仏とはそもなに者か」
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
東天金星輝き、下弦の月、白馬峯頭に白毫びゃくごうの光りを添う。白馬連山、南国の果実の色を染め、ようやく覚めるや、空も紫気を払って碧光冴え、月しぼんで蒼白。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
パッと眼を打ってきた白毫びゃくごう色の耀きがあって、思わず彼は、前方の床をみつめたまま棒立ちになってしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その明りもきわめて鈍く、目をみはればみはるほど、白毫びゃくごうの光が睫毛まつげをさえぎるので、ここはどこかしら? と思い惑っているとかすかに一点の御灯みあかしがみえる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは丸味を帯びた広いひたい白毫びゃくごうの光に反映せられ、かえつて艶冶えんやを増す為めか、或ひはそれ等の部分部分にことさら丹念に女人の情を潜ませてあるのか、かく
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「暫」は桜の木地彫、「助六」は胴がつげ、頭は象牙で扮装どおりの彩色、「矢ノ根」は同じくつげ着色、「不動」はびゃくだんの木地、ところがその額の白毫びゃくごうが問題なのである。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
この宝石は、もとはインドの奥地にある、ある古いお寺のご本尊ほんぞんの、大きな仏像のひたいにはめこんであったものだそうだ。始は学校で教わったことがあるだろう、白毫びゃくごうというものだ。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから買ったあとの九十五体の観音はどうで焼けてしまうのだから、その玉眼と白毫びゃくごう眉間みけんめてある宝玉、水晶で作ったもの)が勿体もったいない。私が片ッ端から続目つぎめを割って抜き取りました。
しかも命中して、悪僧の眉間に白毫びゃくごうを刻する如く突立った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
道の雪、降る雪、そこらの屋根の雪が、白毫びゃくごう旋風つむじかぜとなって眼をさえぎる。——ふと、かたわらを見ると、傾いた土の家のかどに、一詩を書いたれんと、居酒屋のしるしの小旗が立っていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空はその上にうすい暗みを帯びた藍色あいいろにすんで、星が大きく明らかに白毫びゃくごうのように輝いている。槍が岳とちょうど反対の側には月がまだ残っていた。七日ばかりの月で黄色い光がさびしかった。
槍が岳に登った記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
白毫びゃくごうのガラス窓
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)