痩腕やせうで)” の例文
自分も痩腕やせうでで農業を覚えるのだ、お前に農業を仕込んでもらうことが、わしの事業の第一歩の学問だからよろしく頼む、と言われた。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
工場におけるその痩腕やせうでの稼ぎから生み出した賃銀に由って自己の衣食を支え、それを以て家長の厄介をすくなくしているだけでも
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ゆずり受けて痩腕やせうでながら一家の生計を支えて行った佐助はなぜ正式に彼女と結婚しなかったのか春琴の自尊心が今もそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
色々入り込んだ訳もあろうがさりとては強面つれなき御頼おたのみ、縛ったやつてとでもうのならば痩腕やせうでに豆ばかり力瘤ちからこぶも出しましょうが、いとしゅうていとしゅうて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お杉の痩腕やせうでを掴んで一つ小突いたが、彼女かれちっとも動かなかった。見掛みかけは枯木のようでも容易に倒れない、さながら大地に根が生えたように突ッ立っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくし他事ひとごととは云いながら、命の恩人のかたき、すぐに飛びかゝろうかと思いましたが、先は剣術つかい、女の痩腕やせうででなまじいな事を仕出来しでかして取逃すような事がありましては
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうやら御三名とも喧嘩は不得心と見えるな、こっちもたって買おうとは云わぬ。口惜しかったら、闇討でもかけるがいいであろう、失礼だが貴公らの痩腕やせうでで斬れる相手ではないぞ」
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と額にびくびくとしわを刻み、痩腕やせうで突張つっぱって、爺は、彫刻のように堅くなったが
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大刀老人だいとうろうじんは亡妻の三回忌までにはきっと一基の石碑せきひを立ててやろうと決心した。けれどもせがれ痩腕やせうで便たよりに、ようやく今日こんにちを過すよりほかには、一銭の貯蓄もできかねて、また春になった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
スッポリ頭から冠って快く寝ている、自分も寒いから、痩腕やせうでの力限りに毛布の端を引ッ張ってみたが、びくとも動かない、寒気は彼をして、真個の正直者となさざればまなかったのである。
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「言えなけりゃ、どうしようというのだ、一匹一人の男が死のうと覚悟したものを、貴様の痩腕やせうででどうしようというのだ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
確と面体めんていを認めてから静かに討たんければ成らぬ、殊にそちは剣術が出来てもまだ年功がなし年もかぬから其の痩腕やせうでではとても又市には及ばぬ、わしも共に討たんでは成らぬ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
懷中ふところばかりはるさむ痩腕やせうでみながら、それでものんきにあるいたこともあつたつけ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ふん——ちゃちな面だなあ、陣幕や小野川の腕でぶたれたんなら知らぬこと、この尾羽おば打枯らした神尾の痩腕やせうでが、そんなにこたえるかい、一つぶたせりゃ十両になるんだ、この神尾の痩腕で……」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お前のその痩腕やせうでで、そんなことにまで頼まれなければいいに」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)