燭火ともしび)” の例文
よる燭火ともしびきて、うれしげなあしためが霧立きりたやまいたゞきにもうあし爪立つまだてゝゐる。はやぬればいのちたすかり、とゞまればなねばならぬ。
李張は燭火ともしびの前に浮き出た花のような姿を見たうえに、奥ゆかしいその物ごしを見せられてますますその女がしたわしくなった。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
急の動作で、手近の燭火ともしびが着衣の風にあおられたのだ。その、白っぽい光線の沈む座敷……耳をすますと、深沈しんちんたる夜の歩調のほか、何の物音もしない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして其影が壁の鏡にうつつて幾千の燭火ともしびになつて見える。己はもうジエンツアノの葡萄酒を随分飲んでゐる。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
フエデリゴはこゝにて、この壁中に葬られたる法皇十四人、その外數千の獻身者の事を物語りぬ。われ等は石龕のわれ目に燭火ともしびさしつけて、中なる白骨を見き。
用事ありて駿州すんしゅう興津おきつに赴きけるに、線路の傍らに当たれる庵原郡倉沢村の天神社に、無数の燭火ともしびともりて石段に人影の見えたるより、この深更になにごとならんと
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
淋しさを慰さめる、人間の生身の相手は、酒のみにあらずと云ふ考へも浮び、老人の最後の燭火ともしびも欲しいと云ふ、いやしい欲も時々ほのめく時がないでもない。鷄の聲は朝々いさましく時を告げた。
崩浪亭主人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
いやむしろ、その垂れぎぬの外にある燭火ともしびの穂が、揺らぐのである。
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
短かき夢は燭火ともしび
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あのひめ美麗あてやかさで、かゞや燭火ともしびまただんかゞやくわい! よるほゝ照映てりはゆるひめ風情ふぜいは、宛然さながら黒人種エシオツプ耳元みゝもと希代きたい寶玉はうぎょくかゝったやう、使つかはうにはあま勿體無もったいな
李張はふらふらとその丘の上にあがった。黄昏ゆうぐれの邸内には燭火ともしびの光が二処ふたところからちらちらとれていた。垣はすぐ一跨ひとまたぎのところにあった。彼はそこにたたずんでともしびの光を見ていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
燭火ともしびの下で逢ふ時は、其女は顔をも体をも己に隠さなかつた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
心の春の燭火ともしび
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
心の春の燭火ともしび
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)