ほのほ)” の例文
ほのほまなこ忿怨神いかりのかみよ、案内者あんないじゃとなってくれい!……(チッバルトに對ひ)やい、チッバルト、先刻せんこく足下おぬしおれにくれた「惡漢あくたう」のいまかへす、受取うけとれ。
たがひがしたほのほは、自然しぜん變色へんしよくしてくろくなつてゐた。二人ふたり生活せいくわつ斯樣かやうにしてくらなかしづんでゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
我は思ふに、我情いかに一女子のために燃えんも、その女子の情いかに我に過ぎたらんも、そのほのほの相合ふ時は即ち相滅する時ならん。愛とは得んと欲する心なり。
陸軍中佐なる人の娘と相愛あひあいして、末の契も堅く、月下の小舟をぶねに比翼のかひあやつり、スプレイの流をゆびさして、この水のつひるる日はあらんとも、我が恋のほのほの消ゆる時あらせじ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
胸の恨を棄てなんことは忍ぶべからず、平等の見は我が敵なり、差別の観は朕が宗なり、仏陀は智なり朕は情なり、智水千頃の池を湛へば情火万丈のほのほを拳げん、抜苦与楽ばつくよらくの法可笑をかし
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「おゝつめてえ」といひながらかまどくちからまくれてほのほかざして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ほのほの愛のこころの故里へぞ。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
かの人をしてはほのほに入り、一たびは烟となれど、又「フヨニツクス」(自らけて後、再び灰より生るゝ怪鳥)の如く生れ出でゝ、毒を吐き人をやぶるといふ蛇のはりをば
そのことばの如く暫し待てどもざれば、又巻莨まきたばこ取出とりいだしけるに、手炉てあぶりの炭はおほかみふんのやうになりて、いつか火の気の絶えたるに、檀座たんざに毛糸の敷物したる石笠いしがさのラムプのほのほを仮りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
圖の中なる聖母マドンナのこぼし給ふおほいなる涙の露は地獄のほのほの上におちかかれり。亡者は爭ひてかの露の滴りおつるをけむとせり。僧は又一たびわれを伴ひてその僧舍にかへりぬ。