かっ)” の例文
爾後じごうるときは鉄丸をくらい、かっするときは銅汁を飲んで、岩窟がんくつの中に封じられたまま、贖罪しょくざいの期のちるのを待たねばならなかった。
「ない。……なかった。……それを聞かせてくれる人にわしはかっしている。まだ見ぬ孔明に自分が求めてやまないのも、その声だ。その真理だ」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清三は日課点の調べにあきて、風呂敷包みの中から「むさし野」を出して清新な趣味にかっした人のように熱心に読んだ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
塵埃じんあいまみれた、草や、木が、風雨を恋うるように、生活に疲れた人々は、清新な生命の泉にかっするのであります。
『小さな草と太陽』序 (新字新仮名) / 小川未明(著)
坐ってはしをとったものの、成信はちょっとそこで躊躇ちゅうちょした。つまらないようなはなしだが、かっしても盗泉とうせんの水をのまずということが頭にうかんだのである。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしは炎暑の時節いかにかっする時といえども、氷を入れた淡水の外冷いものは一切口にしない。冷水も成るべく之を避け夏も冬と変りなく熱い茶か珈琲コーヒーを飲む。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
相敵対してる国民間の狭い境域に息づまって自由にかっしている、当時の多くの人々と同様に、彼もまたヨーロッパを超越して息をつき得る一角の地を求めていた。
盗賊の物を飲んだり食ったりするのは厭だ、かっしても盗泉とうせんの水を飲まず、其のくらいの事は山三郎存じて居ります、其方そちらで勝手にお飲みなさい、わしは釣にきますとき
竹杖かろげに右手めてに取り直し、血にかっしたる喜三郎の兇刃に接して一糸一髪いっしいっぱつゆるめず放たず、冷々れいれい水の如く機先を制し去り、切々せつせつ氷霜ひょうそうの如く機後きごを圧し来るに、音に聞えし喜三郎の業物わざもの
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
復一は永い間かっしていた好みのものは、見ただけで満足されるというやすらいだ溜息ためいきがひとりでに吐かれるのを自分で感じ、無条件に笑顔を取り交わしたい、孤独の寂しさがつき上げて来たが
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一刻も早く血が吸いたいというようにかっしている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
長光寺城中の実状、いよいよ水に窮し、兵馬みなかっして、乾き死なんとするや、蓄蔵の大瓶おおがめ三個の水を、枯喪こそうして生色なき城兵のまん中に担ぎ出させ
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かっしても盗泉とうせんの水を飲まず位の事は心得ているではないか、何ういう訳で人の物をる気になった、手前とは知らずナ、此の角右衞門が旅人たびゞとを助けようとして打留めたのであるぞ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清らかな、日に輝いて、たえなる歌をうたって流れている水にかっしている。唇の紫の女も水に渇している。女は、もはや、森を奥深く分けて進むに堪えなかった。激しい日光ひかりは緑の葉に燃えている。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
われ出でず戦わず、ひたすら陣を守って日を移しておるならば、彼は、曠野の烈日に、日々気力をついやし、水にかっし、ついには陣を引いて山林の陰へ移るであろう。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元より衣食のみちはつかず、というて、身寄り頼りにすがって、さもしい頭も下げきれず、また、かっしても盗泉とうせんの水はくらわず——と頑固に持して、一同、この街道の橋袂はしたもとに、貧しい納屋なや一軒借りうけ
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)