うつ)” の例文
行灯あんどん丁字ちょうじが溜まって、ジ、ジと瞬きますが、三人の大の男は瞬きも忘れて、互の顔を、二本の徳利を、うつろな眼で見廻すのです。
……ハートをダイヤだと言い、勘定を間違え、札を取り落し、はては物におびえたようなうつろな笑い声を立てて、皆の顔を見廻す。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
散らし髪同然に、鬢髪びんぱつは乱れ、目はうつろに、顔は歪み、着物の前はすっかりはだかって、何ともかとも言いあらわしようの無いていたらくなのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と、行宮から北の方の大きな神木のうつろをのぞいてみた。外部の宮方との連絡にはいつもここを使っていたからである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
合戦のいきおいがまた盛返もりかえしたとの注進もうつろ心に聞きながし、わたくしは薙刀なぎなたつえに北の御階みはしにどうと腰をえたなり、夕刻まではそのまま動けずにおりました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「そうか、そんな事情があったのか。僕は少しも知らなかった。」山本はこう云ったが、それはまるで作りつけの人形が、機械で物を云っているような、きわめてうつろな調子であった。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
私は、そのうつろな耳腔みみ諄々じゅんじゅんささやくことで驢馬の記憶を呼びさまそうとした。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
行燈あんどん丁子ちやうじが溜つて、ジ、ジとまたゝきますが、三人の大の男は瞬きも忘れて、互ひの顏を、二本の徳利を、うつろな眼で見廻すのです。
すると胸の奥の方で、自分はつまらぬ、平凡な、やくざな、取るに足らぬ女だ、とかすかにうつろな声で囁くものがある。……
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
合戦のいきおいがまた盛返もりかえしたとの注進もうつろ心に聞きながし、わたくしは薙刀なぎなたつえに北の御階みはしにどうと腰をゑたなり、夕刻まではそのまま動けずにをりました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
腹を抱えて笑い出すと、そのうつろな笑いが、水を渡り闇を縫って、ケラケラケラと川面一パイに拡がって行きました。
そして彼等は聴くであらう、同時に近くから遠くからき起るうつろな鐘のひびきを、続いて無数の黄ばんだ祈りの声を。のみならず、たとへば私なら、もつと先を想像することが出来る。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
腹を抱へて笑ひ出すと、そのうつろな笑ひが、水を渡り闇を縫つて、ケラケラケラと川面一パイにひろがつて行きました。
おびたゞしい出血に顏の色はらふの如く白くなつて居りますが、眼鼻立ちの端正さは名人のきざんだ人形のやうで、うつろに開いた眼には、恐怖の影さへもなく
「この臺は思ひの外重いんですがね。宜い鹽梅に側にあつたてこを使つてあげて見ると、中はうつろになつて、この三品をねぢ込んでゐるぢやありませんか」
うつろな笑ひと、譯の解らぬ絶叫と、滅茶々々にもつれ合ふ中を、七人の男女が狂態の限りを盡すのでした。
うつろな笑いが、巨大な機械の外に何んにもない研究室の四壁に木精こだまして、千種十次郎をゾッとさせました。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
振り返る二十二三の若い男、緊張した青い顏が、間伸びがして少し長く、愚鈍ぐどんさうなうつろな眼、一應若旦那型の良い男——とは踏めますが、あまり嬉しくない人物です。
黒い覆面から漏れたのは、鉛色の濁った皮膚、うつろな眼の穴——多分それは彦徳ひょっとこの仮面でしょう。
黒い覆面から漏れたのは、鉛色のにごつた皮膚ひふうつろな眼の穴——多分それは彦徳ひよつとこの假面でせう。
振り返ると二十二三の若い男、緊張した青い顔が、間伸びがして少し長く、愚鈍ぐどんそうなうつろな眼、いちおう若旦那型の好い男——とは踏めますが、あまり嬉しくない人物です。
傅次郎を殺した刄物は——井戸の中か、縁の下の土の中か、いや、いや、いつぞや材木屋で、銘木のうつろの中に物を隱して置いたためしがある。こゝにもそんな隱し場所は澤山ある筈だ
苦い笑が、郷太郎の頬を痙攣さして、うつろな声が、夜の林にカラカラと木精こだまします。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
相好そうごうは変っていますが、紛れもない浪人梶四郎兵衛、娘のお勇と同じように、胸に両刃の剣を突っ立てられて、怨み多いうつろな眼に、格天井ごうてんじょうの下手な丸龍まるりゅうの絵を睨んでいるではありませんか。
うつろな眼を開いて、わなゝく唇が少し動くと、宙に物の影を追ふやうに
うつろな眼を開いて、わななく唇が少し動くと、宙に物の影を追うように
うつろな声、眼はギラギラと瀬戸物のように光ります。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それは陰惨でうつろで、虚脱したような笑いでした。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と宇古木兵馬の聲がうつろに響きます。
うつろな笑ひがケラケラと響きます。
うつろな笑いがケラケラと響きます。
うつろな、淋しい声です。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)