比翼ひよく)” の例文
そのちぎりは、比翼ひよくの鳥もおろかと思い、つねに生死と紙一ト重な敵中で、いわば糟糠そうこうの妻振りを、かたむけつくしていたのである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何しろ手放しだ。錦子さんとの仲は、天にあらば比翼ひよくの鳥、地にあらば連理れんりの枝。それは好いが嘘字が沢山書いてあった」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
女の持物には、ことごとく自分の紋と安達の紋とが比翼ひよくにして附けてある。二三日安達の顔を見ないとしゃくを起す。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ありしは何時いつの七せき、なにとちかひて比翼ひよくとり片羽かたはをうらみ、無常むじようかぜ連理れんりゑだいきどほりつ、此處こヽ閑窓かんさうのうち机上きじやう香爐かうろえぬけふりのぬしはとへば、こたへはぽろり襦袢じゆばんそでつゆきて
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのはるきたるごとに余に永遠希望の雅歌を歌いくれし比翼ひよくママ有する森林の親友も、その菊花かんばしき頃巍々ぎぎとして千秋にそびえ常に余に愛国の情を喚起せし芙蓉ふようの山も、余が愛するものの失せてより
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
天に在っては比翼ひよくの鳥、地に在っては連理れんりの枝、——ああ、あの約束を思うだけでも、わたしの胸は張りけるようです。少将はわたしの死んだことを聞けば、きっとなげじにに死んでしまうでしょう。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
したしみねぶる比翼ひよくつばくらめ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
比翼ひよく
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
海と陸とで、昼は呼びあい、夜は夜で、火光を揚げて、相互、比翼ひよくの軍となって進むこと。それが作戦第一の約束だった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天にあっては比翼ひよくの鳥、地に在っては連理れんりの枝とならん——と来世を願った漢帝の悔恨を、胸に歌に繰り返して、泣き死んでも追いつかないことである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ生きても死んでも、離れていても、お互いの心は、比翼ひよくの鳥のように、連理れんりの枝のように、固くむすばれているものと信じていますから、ちっとも淋しくなんかない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく唐宋とうそうの詩人などが歌いあげている——比翼ひよくのちかいとか、同穴どうけつのちぎり、鴛鴦えんおうむつみ——などという言葉にあたる永遠をかけた不変の愛とは、つまり遊戯の中にはないものである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)