よこぎ)” の例文
霧は林をかすめて飛び、道をよこぎつて又た林に入り、真紅しんくに染つた木の葉は枝を離れて二片三片馬車を追ふて舞ふ。御者ぎよしや一鞭いちべん強く加へて
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
日光へでも行くらしい、男女おとこおんなの外国人の綺麗きれいな姿が、彼等の前をよこぎって行ったとき、お島は男に別れる自分の寂しさを蹴散けちらすように、そう云って、嘆美の声を放った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
田のくろを越えて、丘の上を抜けて、谷川の流をよこぎつて、前から、後から、右から、左から、其方向に向つて走り行く人の群、それが丁度大海に集るごとく、鎮守の森の陰の路へと進んで来るので
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「白い帆が山影をよこぎって、岸に近づいて来る。三本の帆柱の左右は知らぬ、中なる上に春風しゅんぷうを受けてたなくは、赤だ、赤だクララの舟だ」……舟は油の如くたいらなる海を滑って難なく岸に近づいて来る。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くろずんだ土や、蒼々あおあおした水や広々した雑木林——関東平野を北へ北へとよこぎって行く汽車が、山へさしかかるに連れて、お島の心には、旅の哀愁が少しずつしみひろがって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
此處こゝ谷間たにまる一小村せうそん急斜面きふしやめん茅屋くさやだんつくつてむらがつてるらしい、くるまないからくはわからないが漁村ぎよそんせうなるもの蜜柑みかんやま産物さんぶつらしい。人車じんしや軌道きだうむら上端じやうたんよこぎつてる。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)