桝形ますがた)” の例文
関所の跡は、箱根町と元箱根の間に、今も桝形ますがたが残っているが、これを避けて姥子うばこへ回ると、湖尻こじりの手前に、もう一つ、小型の関所があった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ことに昔の本陣だつたままの家作りの牡丹屋や桝形ますがたの茶屋の古びた美しさや、その村はづれの分去わかされのあたりの山々の眺めなどをなつかしんで
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
桝形ますがたの茶屋の番人は何をしている。あそこで食いとめて、こちらへ入れないようにしたらよかりそうなものじゃないか。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「城兵が死を決して出てくる公算こうさんは多分にある。まず、さくをたてよ。桝形ますがた望楼ぼうろうきずけ。そして、城内へ、遠矢とおや、鉄砲を撃ちこみ、昼も夜も眠らすな」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんなことがあっても、いずれかの桝形ますがたか木戸で誰何すいかされ、お改めをうけなければならぬはずなのに、乗物にも徒歩かちにも、それがぜんぜん通っていない。
ところで書誤つた六字といふのは丁重無類な桝形ますがたに塗りつぶしてあり、その上にお役所の文書と同じやうにはんこを捺して、それから訂正の文字が加へてあつた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
一つの顕著な例は三月の桃節供に、必ず菱形ひしがたの餅を飾ることである。是を桝形ますがたの餅とも称して、奥州では正月に人の家に贈る餅の、まった一つの形となっていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
桝形ますがた探険隊事務所では、帆村たちを、防弾天井越しに青空の見える円天井広間へ招じ入れた。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宿の外れに立っているのは、有名な桝形ますがたの茶屋であったがそこの雨戸も鎖ざされていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どの家も同じやうに、表格子の隅つこに、小さい桝形ますがたの窓、といふよりも穴をり抜いてあつて、そこから白い首の女が顔だけのぞかして、さう頻りに呼びかけてゐるのであつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
もっとも千蔵は眺めた訳ではない、彼はその日城を下るとき、本丸の桝形ますがたの処で知らない人間にぎゅっと油を絞られた、向うから来た三人れとすれ違うとたん、「待て」と大きく呼止められた
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
冷たいとうの畳の上へ細長い板を桝形ますがたに敷渡し、これが食台になっている。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
地形ちけい四角しかくなるところすなは桝形ますがたなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少し緩いので、足に巻いた反古紙ほごがみ、方三寸ほどのをしわを伸して見ると、桝形ますがたの図を引いて、外囲そとのり内囲うちのりから、深さの寸法まで、書き込んであるのです。
時なるかな、宇治山田の米友は、峠の町から軽井沢の桝形ますがたの茶屋まで、真一文字に飛んで参りました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
村の西のはづれには、大名も下乘したといはれる、桝形ますがたの石積がいまもわづかに殘つてゐる。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
こんど新たに築きかけている城南の捨曲輪すてぐるわ、その水堀から積み上げた大石の堆層たいそうが、どうしたのか、今俄然がぜんとしてくずれたため、上の桝形ますがたへ建築しかけている出丸櫓でまるやぐらの一端まで
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたくしのつれあいは碇曳治いかりえいじでございます。桝形ますがた探険隊の一員でございますわ。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
後朝きぬぎぬの場所桝形ますがたの茶屋
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
口門を入ると桝形ますがたがある。ここには石樋いしどいがあり、口元は千百二十四貫八百五十九匁の鉛を敷いてある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いわゆる三十六見附は、高い石垣の桝形ますがたがあって、槍や鉄砲や梯子はしごの類は通さない。物干し竿なんぞも、本当は、いけないのであるが、先へ、ひょいと風呂敷を引っかけて
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
こうび立てながら、咲耶子はおくのくるわから二の郭の中間ちゅうかん桝形ますがたさくまで走ってくると、とうぜん、そこに夜半よなかでもめていなければならないはずの武士ぶしが、声もなく寂寞せきばくとして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはいずれの桝形ますがたの中の数字であろうか。
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ナンダ、その先生か。そんならうん州が駕籠かごに乗って、いい心持でいびきをかいてござったあ。今時分は軽井沢の桝形ますがたの茶屋あたりで、女郎衆にいじめられてござるべえ」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
地つづきの同じ床下ではあるが、よく見ると、左右太のいる所は、太い木材を横に廻し、桝形ますがたに区切られていて、内から出ることも、外から近づくことも、出来ないようになっていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)