トップ
>
杳
>
はる
ふりがな文庫
“
杳
(
はる
)” の例文
杳
(
はる
)
かな昼の一点に傾けてゐるとしたならば、人はみな、荒涼たる風景を浪うち覆ふ、嘗て如何なる文化も手を触れなかつた寂寥の中に
測量船
(新字旧仮名)
/
三好達治
(著)
音といふものは、それが遠くなり
杳
(
はる
)
かになると共に、カスタネツトの音も車の
轣轆
(
れきろく
)
も、人の話聲も、なにもかもが音色を同じくしてゆく。
闇への書
(旧字旧仮名)
/
梶井基次郎
(著)
さうしていま自分の前に横たはつて居る歌の道はいよ/\寂しく、そしていよ/\
杳
(
はる
)
かに續いてゐるのを感ずるのである。
樹木とその葉:17 歌と宗教
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
しつきりなしの人の乗降、よくも間違が起らぬものと不思議に堪へなかつた。電車に一町乗るよりは、山路を三里素足で歩いた方が
杳
(
はる
)
か
優
(
ま
)
しだ。
天鵞絨
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
源氏山の中腹を過ぎると、早川に沿うた連嶺が眼前に展開され、
杳
(
はる
)
かに水の音がきこえる。細い白樺もチラホラ見える。
白峰の麓
(新字新仮名)
/
大下藤次郎
(著)
▼ もっと見る
鏡の向かうところ一道の
白光
(
びゃっこう
)
闇を貫き、その白光の
杳
(
はる
)
か
彼方
(
かなた
)
、八ヶ岳の山頂と覚しき辺りに、権六を抱えた五右衛門の姿、豆より小さく見えていたが
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
別れた人なぞは
杳
(
はる
)
かにごま粒ほどの思い出となり果てた。せめて三十円の金があれば、私は長いものを書いてみたいのだ。天から降って来ないものかしら……。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
頭に残っている姉と姉の子供たちのことも、
漠然
(
ばくぜん
)
として
杳
(
はる
)
かで、ついには全く消えうせてしまった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
遽
(
にわ
)
かに永劫の楽園を慕うて
沈黙
(
サイレンス
)
の海に消え、紫色の……さながら夢のような……さながら消えた悲みのような、遠いまた
杳
(
はる
)
かな島山蔭の波間に見える、永劫の夏の浄土に憧がれ
面影:ハーン先生の一周忌に
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
取りとめもない
杳
(
はる
)
かな想い、窓の外を飛びゆく切れ切れの景色、規則的な車輪の響き、而も安らかな静寂……ぽつりぽつりと、降るとも見えぬ雨脚が、窓硝子に長く跡を引いていた。
丘の上
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
店頭の
賑
(
にぎは
)
しさなども一向心を引くことがなく、その騒々しい往来の物音も、どこか遠い
杳
(
はる
)
かな夢の世界のものの様に聞え、いくら眼を見開いても、何も見えず、心がとろ/\とろけて
世の中へ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
忍びやかに
杳
(
はる
)
かの谷底——黒部の大谷をさしてぞろぞろと下りて行く気配がある。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
師のねがふ事いとやすし。待たせ給へとて、
杳
(
はる
)
かの
底
(
そこ
)
に
去
(
ゆ
)
くと見しに、しばしして、
冠
(
かむり
)
装束
(
さうぞく
)
したる人の、
前
(
さき
)
の
大魚
(
まな
)
に
胯
(
また
)
がりて、
許多
(
あまた
)
の
四四
鼇魚
(
うろくづ
)
を
率
(
ひき
)
ゐて浮かび来たり、我にむかひていふ。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
魂が
身体
(
からだ
)
を抜けると云ってはすでに語弊がある。霊が
細
(
こま
)
かい神経の末端にまで行き
亘
(
わた
)
って、泥でできた肉体の内部を、軽く清くすると共に、官能の実覚から
杳
(
はる
)
かに遠からしめた状態であった。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
今まで広い空間に孤独を歎き、一人を歎き、自然の無関心を
慨
(
なげ
)
いた自己は、
杳
(
はる
)
かに遠い過去に没し去つた。今はその如来の像はかれに向つて話し懸けた。又かれに向つて
微妙
(
みめう
)
不可思議の心理を示した。
ある僧の奇蹟
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
夢
(
ゆめ
)
杳
(
はる
)
かなる鴨の水
藤村詩抄:島崎藤村自選
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
夢
(
ゆめ
)
杳
(
はる
)
か
兜
(
かぶと
)
の
星
(
ほし
)
も
孔雀船
(旧字旧仮名)
/
伊良子清白
(著)
精進
(
しょうじ
)
を過ぎ
本栖
(
もとす
)
を
発足
(
た
)
って駿甲の境なる割石峠の辺から白峰が見える。霞たつ暖い日で、山は空と溶け合うて、ややともすればその輪廓を見失うほど、
杳
(
はる
)
かに、そして
幽
(
かす
)
かなものであった。
白峰の麓
(新字新仮名)
/
大下藤次郎
(著)
其他、甲州地、秩父地、上州地、信州地は無論のこと、
杳
(
はる
)
かに越後境だらうと眺めらるゝもろ/\の峰から峰へ、寒い、かすかな光を投げて、云ふ様なき荘厳味を醸し出して呉れたのである。
木枯紀行
(新字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
撃柝の音は坂や邸の多い堯の家のあたりを、微妙に変わってゆく反響の工合で、それが通ってゆく先ざきを
髣髴
(
ほうふつ
)
させた。肺の
軋
(
きし
)
む音だと思っていた
杳
(
はる
)
かな犬の遠
吠
(
ぼ
)
え。——堯には夜番が見える。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
事実の彼方という
杳
(
はる
)
けさが、彼の心に甘えていた。
同胞
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
杳
(
はる
)
かな荒野の風の夢
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
だんだん姿があらわれて来るに
随
(
したが
)
って、影の自分は彼自身の人格を持ちはじめ、それにつれてこちらの自分はだんだん気持が
杳
(
はる
)
かになって、ある瞬間から月へ向かって、スースーッと昇って行く。
Kの昇天:或はKの溺死
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
全く夢のように
杳
(
はる
)
かなものでした。
女と帽子:――「小悪魔の記録」――
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
杳
漢検1級
部首:⽊
8画
“杳”を含む語句
杳然
杳々
杳冥
杳渺
杳窕
一結杳然
杳樹
杳眇
杳茫
杳遠