末世まつせ)” の例文
又江戸以来勃興した戯作といふ日本語の写実文学の感化が邪道に陥つた末世まつせの漢文家を侵した一例と見ても差支へがないからである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ことによると末世まつせの我々には、死身しにみに思ひをひそめたのちでも、まだ会得ゑとくされない芭蕉の偉さが残つてゐるかも知れぬ位だ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……数百年まえの楠公なんこう父子が、われわれ如き末世まつせのやくざを、救うてくれたかと考えると不思議なここちに打たれます
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まずしうして良妻をおもい、時艱にして良相をおもう。徳川末世まつせ晁錯ちょうそたる水野越前守は、廃蟄はいちつ後、いまだ十箇月ならざるに、再び起って加判列の上席に坐しぬ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あゝ、末世まつせだ、なさけない。みんなみんなで、また信仰しんかうよわいといふはうしたものぢやな。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とゞろかし末世まつせ奉行のかゞみと成たる明斷めいだんちなみて忠相ぬしが履歴りれきとその勳功くんこう大略あらましとを豫て傳へきゝ異説いせつ天一ばうさへ書記かきしるして看客かんかくらんそなふるなれば看客此一回を熟讀じゆくどくして忠相ぬしが人と成りはらにを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
僕などは、この遍路からたいへん勇気づけられたとつていい、さうして遂に大雲取も越えて小口の宿に著いたのであつた。実際日本は末世まつせになつても、かういふ種類の人間も居るのである。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
末世まつせを見通しなされたのだ、あれほどのお方で妻帶をなすつたのは、御自分のえらいのを知つて、のちの坊主どもが、とてもそんな堅つくるしくしてゐられめえと、わざと御自分がみんなの爲に
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
神よ、わし達は何と云ふ末世まつせに生きてゐるのでござらう。客人たちは皆黒人の奴隷に給仕もして貰つたさうな。其奴隷共は又何やらわからぬことば饒舌しやべる、わしの眼には此世ながらの悪魔ぢや。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
われは思ふ、末世まつせ邪宗じやしゆう切支丹きりしたんでうすの魔法まはふ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
末世まつせぶつえんれしかのしやうぎよく
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
富の勢力は槍先功名やりさきのこうみょうまでもかせり。功名の記念たる、封建武士の世禄せいろくも、その末世まつせにおいては、一種の様式となり、売買せらるるに到れり、今日における鉄道株券同様に。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
今また棟木むなぎ、——末世まつせの火
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)