きら)” の例文
倫敦、巴里、伯林、紐育、東京は狐兎のくつとなり、世は終に近づく時も、サハラの沃野よくやにふり上ぐる農の鍬は、夕日にきらめくであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「しかし、不意だからちょっと驚きましたよ。」とその洋画家が……ちょうど俯向うつむいて巻莨まきたばこをつけていた処、不意をくらった眼鏡がきらつく。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
敵は髪を長く垂れた十五六の少年で、手にはきらめく洋刃ないふのようなものを振翳ふりかざしていた。薄闇で其形そのかたちくも見えぬが、人に似て人らしく無い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
路傍に、えて、こもをかぶっている人間のすがたにも、刀槍をきらめかせて、六波羅大路おおじを練り歩く武将にも、新たな、観る眼があいて世の中を考えだした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
という折から安田一角は大松おおまつの蔭に忍んでおりましたが提灯が消えるを合図にスックと立ってすかし見るに、真暗ではございますが、きらつく長いのを引抜いてこう透して居ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
朝は日を受けて柔和な桃色をし、昼は冴えた空に反映して、燧石すいせきのようにキラキラきらめき、そのあまりに純白なるために、傍で見ると空線に近い大気を黒くさせて、眼を痛くすることがある。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
日を照りかへして白くきらめく岩の山、見るだに咽喉のんどのいらく土の家、見るものこと/″\く唯渇きに渇きて、旅人の気も遠く目もくらまんとする時、こゝに活ける水の泉あり、滾々こん/\として岩間より湧き出づ。
河原を抜けて、街道へ出ると、一筋の見渡される月明り、その小半丁先にあたって、点々と黒い人影、しかもきらめくものは、たしかに乱れ入れ合うつるぎの光だ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俯向うつむいた襟足が、すっきりと、髪の濃いのに、青貝摺あおがいずりの櫛がきらめく、びんなでつけたらしいが、まだ、はらはらする、帯はお太鼓にきちんとまった、小取廻こどりまわしの姿のさ。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頭の上へきらめくはがねがあっても、電光いなづまの如く斬込んで来た時は何うしてこれを受けるという事は知っているだろう、仏説ぶっせつにも利剣りけん頭面ずめんるゝ時如何いかんという事があって其の時が大切の事じゃ
あれ聞け……寂寞ひっそりとした一条廓ひとすじくるわの、棟瓦むねがわらにも響き転げる、わだちの音も留まるばかり、なだの浪を川に寄せて、千里のはても同じ水に、筑前の沖の月影を、白銀しろがねの糸で手繰ったように、星にきらめく唄の声。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)