時間とき)” の例文
心の中では燃えていても、形へ現わすには時間とき必要る。そうして多くはその間に、邪魔が入るものである。そうして消えてしまうものである。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
早く申せば旨くもねえものをこんなに数々とりはせぬぞ、長居をして時間ときついやし、食いたくもない物を取り、むだな飲食のみくいをしたゆえ代は払わんぞ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いつもはぬらくら者の水が、案外皮肉で、土地ところの知事がぼんやりしてゐる時間ときをよく知つてゐるものだといふ事を教へて呉れたのも洪水の力だ。
時々、海老屋の大時計のつらが、時間ときの筋をうねらして、かすかな稲妻にひらめき出るのみ。二階で便たよる深夜の光は、瓦斯がすを合わせて、ただその三つのともしびとなる。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕闇のまだすっかり濃くなりきらないうち半時間ときばかりをポーチに坐っていてから、お袋さんや細君や細君の妹や家族の者一同と共に、早い夕飯を食べるのだろうか
直に目にうつるは鬚髯しゆぜん蓬々ぼう/\たる筒袖の篠田長二なり「では、差当り御協議したいと思つたことは、是れで終結を告げました——少こし時間ときおくれましたが、他に御相談を要する件がありますならば——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
一 他人と寄合よりあいの時或は時間ときの定ある時は必ず守るべし
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おそろしいことはない おそろしい時間ときはないのです
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
生徒せいとめに時間ときおくつてらるゝのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「本当に時間ときが早くたつこと!」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
人は往々にして、真の驚異や、真の感激や、真の美意識に遭遇ぶつかった時、時間とき空間ところとを忘却わすれるものであるが、この時の二人がまさにそれであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もつと至極しごくの事で、他所ほかの水はびんたくはへて持ち寄りをしたのだから、時間ときが経つて死水しにみづになつてゐる。加茂川のはたてだけに水がきてゐる。美味いに不思議はない筈だ。
鍛冶屋とも、かれこれ四半時間ときあまりも啀みあった挙句、やっと折れあったものだ。
実は、婆々ばばどのの言うことに——やや親仁おやじどのや、ぬしは信濃国東筑摩郡松本中での長尻ながちりぞい……というて奥方、農産会に出た糸瓜へちまではござらぬぞ。三杯飲めば一時いっときじゃ。今の時間ときで二時間かかる。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、わずかな時間ときの相違で、大塔宮ご一行は、竹原館をお出ましになり、吉野へご潜行あそばされた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
短くはあったが長く長く、感じられる時間ときが経って行く。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひっそりと時間ときが経って行く。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)