昔語むかしがたり)” の例文
うれかなしい過去の追想おもひで、精神の自由を求めて、しかも其が得られないで、不調和な社会の為にくるしみぬいた懐疑うたがひ昔語むかしがたりから
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
犬冢の家で二人は夜の更けるまで昔語むかしがたりをして、さて主人と三人川開の日に墨田川に舟を泛べて遊ぶことを約した。蘭軒は誘はれてこれに加はつたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
初よりの事のもとすゑを打開けんも我が心やりなれば、煩はしけれど聞き給へとて、われは昔語むかしがたりをぞ始めける。
そこに一糸をまとわぬ艶かしき影を躍らせて嬉戯きぎするさまは、ギリシャの昔語むかしがたりを画題とした名画でも見る様です。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なんだかこう金が入ると浮気になったようだから、一ぺい飲みながら、ゆるりと昔語むかしがたりがしてえのだが、こゝのうちア陰気だから、これから何処どこかへ行って一杯やろうじゃアねえか
唯此の昔語むかしがたりの主人公が其の女主人公に見出した魅力を、我々が此の島の肌黒く逞しい少女共に見出し難いだけのことだ。一體、時間といふ言葉が此の島の語彙の中にあるのだらうか?
富藏とみざううたがはないでも、老夫婦らうふうふこゝろわかつてても、孤家ひとつやである、この孤家ひとつやなることばは、昔語むかしがたりにも、お伽話とぎばなしにも、淨瑠璃じやうるりにも、もののほんにも、年紀とし今年ことし二十はたちになるまで、民子たみこみゝはひつたひゞきに
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なるほど不思議ですな。」と、市郎も何だか夢のように感じた。天狗や山男や、そんなものは未開時代の昔語むかしがたり一図いちずに信じていた彼の耳には、この話が余りに新し過ぎて、殆ど虚実の判断に迷った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ロミオ ねんにはおよばぬ。いまこの憂苦勞うきくらうは、のちたのしい昔語むかしがたりぢゃ。
ただこの昔語むかしがたりの主人公がその女主人公に見出した魅力を、我々がこの島の肌黒くたくましい少女どもに見出しがたいだけのことだ。一体、時間という言葉がこの島の語彙ごいの中にあるのだろうか?
それだけののぞみに応ずべしとこういう風に談ずるが第一手段いちのてに候なり、昔語むかしがたりにさることはべりき、ここに一条ひとすじくちなわありて、とある武士もののふの妻に懸想けそうなし、かたくなにしょうじ着きて離るべくもなかりしを
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)