早熟ませ)” の例文
おきみ婆さんの言葉はずいぶんうがちすぎていたけれど、私は子供心にうなずいて、さもありなんという早熟ませた顔をしてみせました。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
そして、早熟ませた葉子への執着が、き切れなくなった時に彼が見つけたのは、あの煎餅のかけらが産んだ、恐ろしい恍惚境エクスタシーだった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
西洋の娘がいかほど早熟ませているにしても、よしんば恋がミネルヷの神力を与えたにしても、十三や十四の娘に斯んな気のきいた、綺麗な
文章その他 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
早熟ませた口調で極めて明瞭に、自分の志望は未だ確定はしないが、法科へはいって将来国家の経綸を行なうべき政治家になりたいと言った。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
早熟ませた口調で言つてゐるのはこの先の町の葉茶屋の少女ひろ子である。遊び友達らしい子供の四五人の声で、くす/\笑ふのが少し遠く聞える。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
木蔦きづたのからんだ洋風の階段を見出した時に、少年よりいくぶん早熟ませているらしい少女は思い切ったように言った。
あいびき (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
バリモントはそれ以上の早熟ませた子供で、その頃から乳母ばあやにお尻を叩かれては、くす/\喜んでゐたに相違ない。
彼は紀州家の御曹子おんぞうしで、世間知らずの初心の若殿で、それに年も十八で、その上おく手で早熟ませていなかった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丁度その学校を出ようとする前の年頃から年よりは早熟ませて居た私は、仲間とすっかり違った頭になって居たので親しい人も出来ずジイッと一つ事を思いふけったり
M子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
いつも、いつも、お前はなんて早熟ませているのだろうとつぶやく母親には、見られたくなかったので、錦子ははねおきると、乳房おちち朝㒵あさがおにしてしまい、腰の丸味はたらいにしてしまった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかし年よりはやや早熟ませた眸と、純な処女おとめとも受けとれない肌や髪のにおいを持っている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に胸のふくらみと腰の豊かな線とは、年よりはるかに早熟ませそそるようなまるみをもっている。湯に温められた肌は薄桃色に染まり、それをぼうと光暈こううんが包んでいるようにみえた。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はたの目で痛ましく思うほどではなく、それをいやがらない子もあり、まだ仇気あどけないおしゃくの時分から、抱え主や出先のねえさんたちに世話も焼かさず、自身で手際てぎわよく問題を処理したお早熟ませもあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「こいつ、早熟ませている。……そういうお前はなんだ」
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「……だすいうても、ちょっと、あんた、あんたその時分はまだ赤子ややさんだしたンやろ? えらい早熟ませた、赤子だしてンナ……。」
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
斯う云い乍ら急に娘は四郎の側へ参りましたが如何にも早熟ませた物腰で四郎の手を堅く握りました。
天草四郎の妖術 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「——忘れもしねえ、餓鬼時分から、早熟ませたちだといわれた俺が、十九の夏の晩だった」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの悪戯いたずらつ子がお茶汲んで出す恰好かっこう早熟ませてゝ面白いんで、お茶出せ、出せと、いつも私は言ふんで御座ございますがね、今日のやうに伯母おば夫婦に気兼きがねするんぢや、まつたく、あれぢや
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
少年よりいくぶん早熟ませてゐるらしい少女は思ひ切つたやうに言つた。
あひびき (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
早熟ませた二人はお互にそれで満足したのであった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「それは大変お気の毒で」いよいよ早熟ませた調子である、「お留守でございますよ、道人様はね」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何も知らない蜂の子と思っていたら大間違い、どうして、飛んでもなく、早熟ませている!
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでは女が親切にしてくれるということだ。えへら/\笑いながら、姫買いをする所はどこかと道通る人に訊ねると、早熟ませた小せがれやナ、年なんぼやねンと相手にされなかった。
放浪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「ふふ……」緒方はいかにも早熟ませたような薄笑いをした。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「云うにゃ及ぶだ」と早熟ませた口調、猿若はズンズン云い続ける。「で、窓から忍び込み……」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
髪は、たしか、結綿ゆいわたと覚えている。ぎれしぼり鹿の子は、少し寝くずれた首すじに、濃むらさきの襟が余りにも似合っていたし、早熟ませな十九の男には、眼に痛いほど、蠱惑こわくだった。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早熟ませたこと言わんと、はよ寝エ」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「これはこれはお客様で、いつの間においででございましたな」ひどく早熟ませた調子である。大人のような言葉つきである。しかし容貌は美しくあどけなくてまさしく子供だ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
早熟ませているな、年のわりには」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わけの解らない連中なので、さあどこをさして行ったものやら」早熟ませた口調で鯱丸が云う。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この早熟ませめ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)