旗竿はたざお)” の例文
そのくぐりからどうと、馬も人も、槍も鉄砲も、押し合って混み入ろうとした。旗竿はたざおは寝かして通った。この混雑をながめた部将は
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道理こそ、いまし方天幕へ戻って来た時に、段々塗の旗竿はたざおを、北極探検の浦島といった形で持っていて、かたりと立掛けてへえんなすった。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旗男は義兄を助けるために、なにか手頃てごろの得物がないかと、湯殿の中を見まわした。そのとき眼にうつったのは、ななめに立てかけてある長い旗竿はたざおだった。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
高く差し上げた旗が横になびいて寸断寸断ずたずたに散るかと思うほど強く風を受けたのち旗竿はたざおが急に傾いて折れたなと疑う途端とたんに浩さんの影はたちまち見えなくなった。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一塁手は「旗竿はたざお」としょうせられる細長い大工の子で、二塁手は「すずめ」というあだ名で駄菓子屋の子である、すずめはボールは上手じょうずでないが講釈がなかなかうまい
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
美しいギリシャの少年が円柱によりかかって、むかし威力いりょくを物語る戦勝記念標の高い旗竿はたざおを見上げています。旗は喪章もしょうのように垂れさがっています。ひとりのむすめがそこで休んでいます。
が、その時すでに大きな桶は、炎の空に風を切って、がんと彼の頭にあたった。彼はさすがに眼がくらんだのか、大風に吹かれた旗竿はたざおのように思わずよろよろ足を乱して、危くそこへ倒れようとした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おまえの建てられたあの塔はどうあろうと思わるる、丈は高し周囲まわりに物はなし基礎どだいは狭し、どの方角から吹く風をも正面まともに受けて揺れるわ揺れるわ、旗竿はたざおほどに撓んではきちきちときしる音の物凄ものすご
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なるほど、渭水いすいの向う岸に、一群の蜀兵が此方へ向って何事かわめいている。大勢の真ん中に、旗竿はたざおをさしあげているのだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それで旗竿はたざおたまを包んで、それで旗竿の先へ三寸幅ずんはばのひらひらを付けて、門の扉の横から斜めに往来へさし出した。旗も黒いひらひらも、風のない空気のなかにだらりと下がった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうなってくると黙々隊もくもくたいは急に活気づいてきた。一塁手の旗竿はたざおは二塁打を打って千三が本塁に入った。黙々もくもくは一点を勝ち越した。つぎのすずめはバウンドを打って旗竿はたざおを三塁に進めた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
が、ほりを前にしているので、一見難なく見えるそこの築土ついじへも、たやすくは取り付かれなかった。槍、旗竿はたざお、鉄砲、長柄ながえなどの林がひしめき動いているに過ぎなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悲壮な敗将の声をつつんで、一瞬に逃げくずれて行った後の大地を見ると、刀の折れ、柄ばかりの長刀なぎなたしころのちぎれ、草鞋わらじ、燃え残りの旗竿はたざお、鼻紙、ふんどしなどまで、散らばっていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしの葉裏を白くかえして、沼地を渡る風の中には、わずかに旗竿はたざおの先が見えるぐらいで、軍馬らしいものは両岸共に見えなかったが——北岸には、斎藤利三としみつ阿閉貞明あべさだあき明智茂朝あけちしげともなどの兵力は
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、一陣の山風に、旗竿はたざおの竿が折れた。玄徳は、眉を曇らせて
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)