敷居際しきいぎわ)” の例文
破笠子はうやうやしく手をつき敷居際しきいぎわよりやや進みたる処に座を占めければ伴はれしわれはまた一段下りて僅に膝を敷居の上に置き得しのみ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
右側にあるへやはことごとく暗かった。角を二つ折れ曲ると、むこうはずれの障子に灯影ひかげが差した。宗助はその敷居際しきいぎわへ来て留まった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
欝金うこんつつみかかえたおこのは、それでもなにやらこころみだれたのであろう。上気じょうきしたかおをふせたまま、敷居際しきいぎわあたまげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
が、其処そこに横たわっていた藤十郎の姿を見ると、吃驚びっくりして敷居際しきいぎわに立ちすくんでしまった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
敷居際しきいぎわの柱にもたれて坐るのへ、ミネは
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「それじゃ、丁度よう御在ございました。代りに何か御用をいたしましょう。」と婦人はつつみを持ったまま、老人の後について縁側づたいに敷居際しきいぎわに坐り
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それでもKの身体からだちっとも動きません。私はすぐ起き上って、敷居際しきいぎわまで行きました。そこから彼の室の様子を、暗い洋燈ランプの光で見廻みまわしてみました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつにないあら言葉ことばに、あわててつぎからんで藤吉とうきちは、敷居際しきいぎわで、もう一ぺこりとあたまげた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
けれどもちょっと敷居際しきいぎわにとまるだけでけっして中へは這入はいらなかった。「仕度したくはまだか」とも催促しなかった。彼はフロックに絹帽シルクハットかぶっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は何事が起ったのかほとんど判じかねて、敷居際しきいぎわ突立つったったまま、ぼんやり部屋の中を見回みまわした。途端とたんに下女の泣声のうちに、泥棒という二字が出た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その足音が消えると間もなく、お貞さんは自分達のいるへや敷居際しきいぎわまで来て、岡田に叮嚀ていねいな挨拶をした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十六になる小女こおんなが、はいと云って敷居際しきいぎわに手をつかえる。自分はいきなり布団の上にある文鳥を握って、小女の前へほうり出した。小女は俯向うつむいて畳を眺めたまま黙っている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
座敷では佐野が一人敷居際しきいぎわに洋服の片膝を立てて、煙草たばこを吹かしながら海の方を見ていた。自分達の足音を聞いた彼はすぐこっちを向いた。その時彼の額の下に、金縁きんぶち眼鏡めがねが光った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先生は半分縁側の方へ席をずらして、敷居際しきいぎわで背中を障子しょうじたせていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)