摺抜すりぬ)” の例文
旧字:摺拔
どうして貴僧あなた摺抜すりぬけられよう、突離されよう、振切られましょう、私は引寄せます、抱緊だきしめます。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
透かさぬ早業はやわざさかさに、地には着かぬ、が、無慚むざんな老体、蹌踉よろよろとなって倒れる背を、側の向うの電信柱にはたとつける、と摺抜すりぬけに支えもあえず、ぼったら焼のなべを敷いた
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
犬の死骸じゃなかろうかと、摺抜すりぬけようとしたけれども、頬擦ほおずるばかりのびんかおりに。……
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きっと誰かが言合わせて、人を頼んだか、それとも自から化けたか、暗い中からそっ摺抜すりぬける事は出来たんだ。……夜は更けたし、潮時を見計らって、……たしかにそれに相違無い。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人おんな上框あがりがまちに立ちたるまま、かいなを延べたる半身、ななめに狭き沓脱くつぬぎの上におおわれかかれる。その袖の下を掻潜かいくぐりて、摺抜すりぬけつつ、池あるかたに走りくをはたはたと追いかけて、うしろよりいだとど
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蔵屋の倉はたまりかねて、めながら米を摺抜すりぬけて、島野に走り寄った。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
摺抜すりぬけようとするんだがね、六畳の狭い座敷、盲目めくらでも自分のうちだ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
摺抜すりぬけて駈出かけだしもしかねない様子に見え、左に、右に、そのおもてを背けたが、梓の手と、声と、ことばと、真心は、ますます力がこもったから、身も世もあらず、動きもならずいうこと、ここに到るころおいの
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐに摺抜すりぬけて出直したのを見れば、うどん、当り屋とのたくらせた穴だらけの古行燈ふるあんどんを提げて出て、むしろの上へ、ちょんと直すと、やっこはその蔭で、膝を折って、膝開ひざはだけに踏張ふんばりながら、くだんの渋団扇で
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
国麿の手はゆるみぬ。われは摺抜すりぬけてかたえに寄りぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)