掛声かけごえ)” の例文
旧字:掛聲
また或る日に、真赤な肉じゅばんの、青いバンドの入った優しい悪鬼のような姿で、はれイ! と掛声かけごえをした彼女を見た。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
帆村探偵は、大胆にも怪塔王がうしろを向いたすきをのがすことなく、うしろから、「やっ」と掛声かけごえして飛びつきました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
波の様に揺れる駕籠の中で、藤左衛門が先刻さっきから呼んでいたが、多勢おおぜい掛声かけごえに消されて、駕籠屋の耳へ入らないのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お早うお帰りと、かみさんが、浜に立って赤シャツに挨拶あいさつする。おれは船端ふなばたから、やっと掛声かけごえをして磯へ飛び下りた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その間にもはや別の丸太を引っ背負って、南面の大扉にえいおうの掛声かけごえも猛に打ち当っておる者もございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
それでいて例の鹿々何本を、まだ掛声かけごえのようにとなえているのだから、考えてみると子どもは面白い。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
入口がめっからぬらしく、少年車掌の制服を着た若者は、エイと掛声かけごえしながら窓から入ってきた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
次郎七と五郎八とは、黙って合図をして、鉄砲でそのたぬきを狙い、一二三という掛声かけごえと共に、二人一緒に引金を引きました。ズドーンと大きな音がして、狸はばたりと倒れました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
うち這入はいると足場の悪い梯子段はしごだんが立っていて、そのなかほどから曲るあたりはもう薄暗く、臭い生暖なまあたたか人込ひとごみ温気うんきがなお更暗い上の方から吹き下りて来る。しきりに役者の名を呼ぶ掛声かけごえが聞える。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
余裕よゆうを示して、ボオトをランデングに附け、掛声かけごえ勇ましく、頭上高く差し上げたに引き替え、日本選手は決勝線に入ると同時に、精力全く尽き、クルウ全員ぐッたりとオォルの上に突っ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
終始、喬之助は、掛声かけごえひとつ発しなかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その間にもはや別の丸太を引つ背負つて、南面の大扉にえいおうの掛声かけごえも猛に打ち当つてをる者もございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
「その時ひょっと気がつくとするぜ、いいかね。そうしたらその時の君が、やっという掛声かけごえと共に、早変りができるかい。早変りをしてこの僕になれるかい」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の結婚する二三日前に、岡田と佐野は、氷を裂くような汽車の中から身をふるわして新橋の停車場ステーションに下りた。彼は迎えに出た自分の顔を見て、いようという掛声かけごえをした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大刀たちを振りかざし掛声かけごえも猛に、どこやらのやしきから持ち出したものでございましょう、重たげな長櫃ながびつを四五人連れでいて渡る足軽の姿などは、一々目にとめているいとまもなくなります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
虚子は、ここで掛声かけごえをいくつかけて、ここで鼓をどう打つから、おやりなさいとねんごろに説明してくれた。自分にはとてもめない。けれども合点がてんの行くまで研究していれば、二三時間はかかる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昼日なかの大路を、大刀たちを振りかざし掛声かけごえも猛に、どこやらのやしきから持ち出したものでございませう、重たげな長櫃ながびつを四五人連れでいて渡る足軽の姿などは、一々目にとめてゐるいとまもなくなります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)