ぬけ)” の例文
旧字:
相手の自転車は何喰わぬ顔ですうと抜けて行く、ぬけさ加減は尋常一様にあらず、この時派出はでやかなるギグに乗って後ろからきたりたる一個の紳士
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現在は新宿区と呼ばれるが、ぬけ弁天を左へ抜けて、坪内先生のお宅へゆくと、女中が、きまってきいたものだ。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
目科もまた言流して余に向い出しぬけに「さア是から二人で警察本署へ行き、捕われて居る藻西太郎に逢て見よう」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「なに。今頃出しぬけに掛けたって、ろくな芸者がいるものか。よくよくのお茶碾ちゃひきでなくては」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この辺は河岸縁かしっぶち三日月長屋みかづきながやも同然滅多めった素通すどおりの出来る処じゃないんだが、今日はこうして安閑と煙草がんでいられるたア何だか拍子ぬけがしてきつねにでもつままれたようだ。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
興に入って笛を吹いて居る稻垣小左衞門の腰のあたりをドンと出しぬけに突くと、小左衞門は不意を打たれたから堪りません、さかトンボウを打って鐘ヶ淵へドブーンとはまりましたが
と僕の方を御覧ごらんになった。婆やはそれを聞くと立上ったが、僕は婆やが八っちゃんをそんなにしたように思ったし、用は僕がいいつかったのだから、婆やの走るのをつきぬけて台所に駈けつけた。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
オヤモーそちらのが湯だりましたか、それならば一度よく湯煮こぼして下さい。お芋のアクがぬけます。エート先ず梅干あえをこしらえましょうか。そのお芋を少しばかり裏漉うらごしにして摺鉢すりばちへ入れて下さい。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ネエ、奇妙でしょう(荻)成る程奇妙だチャンとさねて摘んだのが次第/\に此通り最う両方とも一寸ほどズリぬけた(大)それは皆もとの方へずり抜るのですよ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
親方へ一寸ちょっと喧嘩に往って来ますと断って出る者は有りますめえ、密々こそ/\と抜け出して出しぬけにわッと云って、大勢が長いのを振舞わして此処こゝへ遣って来られた日にゃ大変じゃありませんか
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぬけだれか大きな声で呼んだものがある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ですからよりを掛たり戻したりする内に鱗と鱗が突張り合てズリぬけるのです(荻)成る程そうかな(大)未だ一ツ其鱗の早く分る事は髪の毛を摘んで、スーッと素扱すごいて御覧なさい
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
夫に逆毛で無い後の二本をく検めて見ると其根の所が仮面めんや鬘からぬけた者で無く全くはえた頭から抜た者です夫は根の附て居る所で分ります殊に又合点の行かぬのはこのちゞれ具合です
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)