所天おっと)” の例文
後で叱るなどとは父か所天おっとで無くては出来ぬ事だ、余「其の人は誰ですか。私の叔父ですか」秀子「イイエ、阿父おとう様では有りません」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
里子は怨霊の本体を知らず、たゞ母も僕も此怨霊に苦しめられて居るものと信じ、祈念の誠をもって母と所天おっとすくおうとして居るのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いやだいやだ、考えてもいやだ。二十二や三で死んでは実につまらんからね。しかも所天おっとは戦争に行ってるんだから——」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いくら所天おっとがどうあろうとも、私は私、けがらわしい。女でこそあれ武士の娘、不義を云いかけるとはもってのほか」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
逸りきったる若き男の間違いし出して可憫あわれや清吉は自己おのれの世をせばめ、わが身は大切だいじ所天おっとをまで憎うてならぬのっそりに謝罪らするようなり行きしは
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くその所天おっとたすけて後顧こうこうれいなからしめ、あるいは一朝不幸にして、その所天おっとわかるることあるも、独立の生計を営みて、毅然きぜんその操節をきようするもの
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
茲まで考え来るときは倉子に密夫みっぷあるぞとは何人なんびとにもしらるゝならん、密夫にあらで誰が又倉子が身に我所天おっとよりも大切ならんや
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「おまえこそ、与茂七さんと云うれっきとした所天おっとがありながら、聞けば此のごろ、味な勤めとやらを」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
所天おっとは黒木軍についているんだが、この方はまあさいわいに怪我もしないようだ」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柔げて「来い/\プラト」と手招するに彼れ応ずる景色けしきなし「駄目ですよ、今申す通りわたくしか所天おっとの外は誰の言う事も聞きませんから」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
と、女はちらとりかえった。そして、所天おっとの顔を見てにっとしたが、そのまままた見えなくなった。
海嘯のあと (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ジェーンは義父ぎふ所天おっとの野心のために十八年の春秋しゅんじゅうを罪なくして惜気おしげもなく刑場に売った。にじられたる薔薇ばらしべより消え難きの遠く立ちて、今に至るまで史をひもとく者をゆかしがらせる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お浦「彼奴めとは彼奴めですよ、彼の悪人ですよ、私の所天おっとですよ」余「エ、エ貴女は既に所天を持ったのですか、貴女は所天が有るのですか」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「あなたより他に所天おっとはないと存じておりますから、たとえお父さまに知れて、手討ちになりましてもかまいません、そのかわり、お見すてなさるとききませんから」
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
若し犯罪が二十有るとすれば其中そのうちの左様さ十五までは大抵女の心から出て居ます、それは私しの所天おっとに聞ても分ります
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ところどころ紙撚かみよりでくくった其の蚊帳の中では、所天おっとの伴蔵が両手を膝についてきちんと坐り、何かしらしきりに口の裏で云っていた。おみねは所天の態度がおかしいので目を睜った。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
所天おっととの間に少しの事から思い違いを生じ、所天が自分を愛せぬ者と思い詰め、涙ながらに唯一人の幼い娘を懐き、所天の家を忍び出て米国へ渡りました
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「どうせ、痴よ、じぶん所天おっと男妾おとこめかけにせられて黙っているのですもの」
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「うろたえもの、今姉妹が自害して、親、所天おっとかたき何人たれが打つ」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
早く所天おっとが帰って来ればと思いながらふるえていた。
海坊主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)