さと)” の例文
気の毒な、そう眼がさとくとも困ったものだ。もちろん冗談さ。たかが魚拾いの下司どものたわごと。そんな側言そばごとをしていたという話だ。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかも、女神のさとさと敏感さは年経る毎に加わるらしく、天象歳時の変異を逸早く丘麓の住民たちに予知さすことに長けて来た。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
よ、我なんじらをつかわすは、羊を狼のなかに入るるが如し。この故に、蛇の如くさとく、はとの如く素直なれ、人々に心せよ、それは汝らを衆議所にわたし、会堂にてむちうたん。
はとのごとく素直すなおに、へびのごとくさとく、私は、私の恋をしとげたいと思います。でも、きっと、お母さまも、弟も、また世間の人たちも、誰ひとり私に賛成して下さらないでしょう。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一番番頭の總吉、利にさといのを看板にしてゐるやうな、非凡の愛嬌者でした。
二度は八百疋捉えたの千疋取れたのと誇大の報告を聞いたが、雀の方がよほど県郡の知事や俗吏よりさとくたちまち散兵線を張って食い荒らし居る、それと同時に英国では鳥類保護の声さかんに
真闇まやみにはまぎらふ光あらなくにまなぶたさとしにほひのみして
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのこころさへさとからむ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
東京裁判が最終論告の段階に入り、横浜裁判と平行して、俘虜部門の弁論がはじまったころ、厚木の早朝ゴルフの帰り、思いついて山川のところへ寄ると、妹のさと子が出てきて
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けれども、けさ、はとのごとく素直すなおに、へびのごとくさとかれ、というイエスの言葉をふと思い出し、奇妙に元気が出て、お手紙を差し上げる事にしました。直治なおじの姉でございます。お忘れかしら。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
昆布こぶ食みてさとき鼠か長き尾の乱り走りぬ波裂くるとき
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
『聖書』に蛇のごとくさとしといったのじゃ。
“蛇の如くさとく、はとの如く素直なれ”
おびのなかにきんぎんまたはぜにつな。たびふくろも、二枚にまい下衣したぎも、くつも、つえつな。よ、われなんじらをつかわすは、ひつじ豺狼おおかみのなかにるるがごとし。このゆえへびのごとくさとく、鴿はとのごとく素直すなおなれ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
二六時中、頭のなかが冴えかえり、およそ寝くたれるの寝呆ねほうけるのということのない眼のさといひとだから、気づかれずにぬけだすなどは、出来ない相談である。しかし、このほうも間もなく解決した。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)