うつた)” の例文
あるひ屹度きつと、及第の通知が間違つてゐたのではないかと、うつたへるやうにして父兄席を見ると、木綿の紋付袴もんつきはかまの父は人の肩越しに爪立つまだ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
以て戦国に遠からぬ時代の人心にうつたへたる如き、概して言へば不自然アンナチユラリズム過激ヱンサシアズムとは、この時代の演劇にく可からざる要素なりしとぞ。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
此點このてんついては國民こくみんぱんうつたへて、さうして國民こくみんとも多年たねん解決かいけつ出來できなかつた大問題だいもんだい解決かいけつする方策ほうさくてたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
そは折を得て送らんとにもあらず、又逢うては言ふ能はざるを言はしめんとにもあらで、だかくもはかなき身の上と切なき胸の内とをひとり自らうつたへんとてなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
刻々の眼と耳にうつたへるイメエジに、かの音楽の演奏を聴くやうな、韻律美の捕捉を心がけていただきたい。
新劇の観客諸君へ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
をつとをして三井みつゐ白木しろき下村しもむら売出うりだ広告くわうこくの前に立たしむればこれあるかな必要ひつえうの一器械きかいなり。あれがしいのうつたへをなすにあらざるよりは、がうもアナタの存在をみとむることなし
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
わたくしは本意ほいなく思つて、或時父にうつたへました。すると父はかう申しました。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わたしはうつたへるやうに、眠りからたちあがる。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
鳶職とびしよくである人一倍弱氣で臆病な亭主も、一刻も速く立退いて行つて欲しいと泣顏べそを掻いて、彼等にそれを眼顏でうつたへた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
人間の精神にうつたふるものならずんばあらず、高大なる事業は境遇等によりて(絶対的に)生ずるものにあらずして、精神の霊動に基くものならざるべからず
といふ意味は、「耳で聴く」といふ観念が先になつてゐるだけで、「耳を通して眼の仮感にうつたへる」といふ最も本質的なラヂオ文学の要素を閑却してゐることである。
ラヂオ・ドラマ選者の言葉 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
これを語らんに人無く、うつたへんには友無く、しかも自らすくふべき道は有りや。有りとも覚えず、無しとは知れど、わづらふ者の煩ひ、悩む者の悩みてほしいままなるを如何いかにせん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さうして見れば、時代が既に推移した今、恩讎おんしうふたつながら滅した今になつて、枯骨ここつ朝恩てうおんうるほつたとて、何の不可なることがあらうぞ。私はかう思つて同郷の先輩にはかり、当路の大官にうつたへた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「わすの子供も屹度停学処分を受けることと思ふが、それでも君のやうに心を入れかへる機縁になるなら、わすも嬉しいがのう」と黯然あんぜんとした涙声でうつたへた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
古代の鬼神を近代の物語にめて玄妙なる識想をうつたへんとするは、到底為すべからざる事なり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そのために「耳を通して他のあらゆる感覚及び精神にうつたえる」
ラジオ・ドラマ私見 (新字新仮名) / 岸田国士(著)
オーイオーイと遠くの方で渇をうつたふ呼び聲、ビール壜に詰めた水を運ぶ女房たち——そうした彼等の生活を、私共は半ば憧憬の心をもつて暫らくの間見てゐた。
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
この観念は以て悲劇を人心の情世界にうつたへしめ、厭世を高遠なる思想家に迎へしむ、人間ありてよりこの観念なきはあらず、或は遠く或は近く、大なるものあり、小なるものあり
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
うらめしげに遣る瀬ない悲味をうつたへた妻の顏までが、圭一郎の眼前に瀝々まざ/\と浮ぶのであつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
人心漸く泰平の娯楽をうつたへ、の芒々たる葦原よしはら(今日の吉原)に歌舞妓、見世物など、各種の遊観の供給起り、これに次いで遊女の歴史に一大進歩を成し、高厦巨屋いらかを并べて此の葦原に築かれ
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)