悲痛かなしみ)” の例文
立ツて来る時には、必ず、アノ広い胸の底の、大きい重い悲痛かなしみを、滞りなく出す様な汽笛を、誰はばからず鳴らした事であらう。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ロミオ ローザラインと一しょぢゃと被言おッしゃるか? その名前なまへも、その名前なまへともな悲痛かなしみも、わし最早もうみんなわすれてしまうた。
万事に甘い乳母を相手の生活くらしは千代子に自由の時を与えたので、二人夕ぐれの逍遙そぞろあるきなど、深き悲痛かなしみを包んだ私にとってはこの上なく恨めしいことであった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
斯の大祭の歓喜よろこびの中にも、丑松の心を驚かして、突然新しい悲痛かなしみを感ぜさせたことがあつた。といふは、猪子蓮太郎の病気が重くなつたと、ある東京の新聞に出て居たからで。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ヂュリ 大空おほぞらくもなかにもこの悲痛かなしみそこ見透みとほ慈悲じひいか? おゝ、かゝさま、わたしを見棄みすてゝくださりますな! この婚禮こんれいのばしてくだされ、せめて一月ひとつき、一週間しうかん
色くれなゐの火炎ほのほかもげに悲痛かなしみの湧き上り
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
足下きみ同情どうじゃう多過おほすぎるわし悲痛かなしみに、たゞ悲痛かなしみへるばかり。こひ溜息ためいき蒸氣ゆげけむりげきしてはうち火花ひばならし、きうしてはなみだあめもっ大海おほうみ水量みかさをもす。