悪体あくたい)” の例文
旧字:惡體
などと、いつも悪体あくたいをつくのです。母親ははおやさえ、しまいには、ああこんなならうまれないほうがよっぽどしあわせだったとおもようになりました。
さんざッぱら恥をかかして置きやがって、今更腹にもない悪体あくたいをついたもよく言えたもんだ。それ程おれが可愛けりゃ小色こいろの一人や二人大目に見て置くがいい。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かねの力できておりながら、金をそしるのは、生んで貰った親に悪体あくたいをつくと同じ事である。その金を作ってくれる実業家を軽んずるなら食わずに死んで見るがいい。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうえはらつとぐに、この野郎やろう、この大馬鹿おおばか悪体あくたいはじまるので、これらは大地主おおじぬしくせであるが、あま感心かんしんしたふうではい、とドクトルもおもうたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
穏坊をんばう畜生ちくしやう此方こつち這入はいつやアがるときかねえぞ、無闇むやみ這入へいりやアがるとオンボウいて押付おつつけるぞ。と悪体あくたいをつきながら穏坊をんばうそでした掻潜かいくゞつてスーツと駈出かけだしてきました。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さあ自棄やけに成つて、それから毒吐どくつき出して、やあ店番の埃被ほこりかぶりだの、冷飯吃ひやめしくらひの雇人やとひにんがどうだのと、聞いちやゐられないやうな腹の立つ事を言やがるから、這箇こつちも思切つて随分な悪体あくたいいて遣つたわ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ちょっとうかがうが吹い子の向うづらと云うのはどう云う意味かね」「へん、手めえが悪体あくたいをつかれてる癖に、そのわけを聞きゃ世話あねえ、だから正月野郎だって事よ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坊が困るといわれた時には、実はこれ/\と打ち明けて云おうかと思ったが、なまじい云えばおっかさんや惣吉の為にならんと思って思い切って、心にもない悪体あくたいを云って出て来たが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
客等きゃくら立去たちさってからも、かれ一人ひとりでまだしばらく悪体あくたいいている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
敬太郎にはなぜこの主人が田口に対してこうまで悪体あくたいくのかさっぱり訳が分らなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分がむかっぱらを立てて悪体あくたいいた事などは話のうちから綺麗きれいに抜いてしまった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼のように無遠慮に自分に近づいて来るもの、富も位地もない癖に、彼のように大きな事を云うもの、彼のようにむやみに上流社会の悪体あくたいくものにはけっして会った事がなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)