ゆるがせ)” の例文
第十八条 礼儀作法は、敬愛の意を表する人間交際上の要具なれば、かりそめにも之をゆるがせにす可らず。ただその過不及かふきゅうなきを要するのみ。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
人情なればこの婦人をいたわりてやるはずなれど、大犯罪人前にあり、これゆるがせにすべからずと、泰助は急ぎ身支度して、雪の下へと出行きぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その教授法の厳格にして周到な事、格を守って寸毫もゆるがせにしなかった事、今思っても襟を正さざるを得ないものがある。(後出逸話参照)
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
〔譯〕雅事がじ多くは是れきよなり、之をと謂うて之にふけること勿れ。俗事却て是れ實なり、之を俗と謂うて之をゆるがせにすること勿れ。
世の中に出でん後は、これをもゆるがせにすべからず。されど、アントニオよ、心をだに附けなば、そはおのづから直るべきものぞ。
兵式の教師が国防のゆるがせにすべからざることを説くと、学生らは国際精神に反するというてこれを排斥する。
人間生活の矛盾 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
「一體諸君は、國語學と云ふと輕蔑する傾きがある。然しそれはとんだ間違ひで、諸君が日本の人間である以上、一瞬間も諸君は國語學をゆるがせにしてはいけない……」
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
事はゆるがせには出来なかった。「先ず切腹」と定られた。併し殿は斯う云われた。「私闘の罪は許すことはならぬ。但し、主水ただ一人へ、二人同時にかかったということだ」
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
志賀氏は惜しみ過ぎると思われるくらい、その筆を惜しむ。一措もゆるがせにしないような表現の厳粛さがある。氏は描かんとする事象の中、真に描かねばならぬ事しか描いていない。
志賀直哉氏の作品 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
文章を書く際には、少くとも常に如上にょじょうの自覚に立つことをゆるがせにしてはならない。
文章を作る人々の根本用意 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ここに於いてか為政者は、いよいよエタ問題のゆるがせにし難いことをさとり、一般人民はこれに対して嫌悪の情を深うし、だんだんとエタ非人を区別し、これを圧迫するの方針を取ったのである。
エタに対する圧迫の沿革 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
彼はやにはに煙管きせるを捨てて、ゆるがせにすべからざらんやうに急遽とつかはと身を起せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
文化のメートルになる仕事だから、一日もゆるがせに出来ない
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
トルストイの『火をゆるがせにせよ。さらば拡がらん』
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
峻嶺岡陵ハ其攀登ニ飽カズ洋海川河ハ其渡渉ヲ厭ハズ深ク森林ニ入リ軽ク巌角ヲヂ沼沢砂場ニ逍遥シ荒原田野ニ徘徊スルハ是レ此学ニ従事スルモノヽ大ニゆるがせニス可ラザル所ニシテ当ニ務テ之ヲ行フベキナリ其之ヲ為ス所以ハ則チ新花ヲ発見シ土産ヲ知リ植物固有ノ性ト其如何ノ処ニ生ズルカヲ知ルニ足レバナリ
就中近頃の小説の文章に、音律といふことがゆるがせにされて居る、何うしてゆるがせ處ではない、頭から文章の音律などは注意もしてゐないやうに思ふ。
文章の音律 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女子は男子よりも親の教、ゆるがせにす可らず、気随ならしむ可らずとは、父母たる者は特に心を用いて女子の言行を取締め、之を温良恭謙に導くの意味ならん。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その言一句といえどもゆるがせにせず、一挙手一投足といえども謹んで、二十七歳の今日まで、あさひの昇るがごとくに博し得た名誉とを、悉皆しっかい神月に捧げて、その妻となったのを、恩だというんなら
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れば子に対して親の教をゆるがせにすべからずとは尤至極もっともしごくの沙汰にして、もある可きことなれども女子に限りて男子よりも云々とは請取り難し。男の子なれば之を寵愛してほしいままに育てるも苦しからずや。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)