どもえ)” の例文
ふたはあと」とか「はあとくずし」とか「新紋形二つはあと」とかいうような人情本臭い題名であって、シカモこの題名の上にふたどもえの紋を置くとか
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しばらくの間どもえに争い続けましたが、貧しいお柳は次第に失い、富んだお糸が、次第にるところが多くなったのは言うまでもないことです。
「おい、あした、アタピンをこっちへ寄こせ。どうもお歴々れきれきのインテリ御婦人が、マンジどもえとからんでいるから、こっちは苦手だ。アタピンに限る」
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
雲と竜ふたつどもえの件、丹下左膳、鈴川源十郎一味の行状なぞ己が知るかぎりお答え申しあげたお艶は、わが一身のことまでお耳に入れて恐懼きょうくしたまま
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この三つは三つどもえのようにつながった謎の三位一体である。この謎の解かれる未来は予期し難いが、これを解かんと努めるのもあながちむだな事ではあるまい。
そのまた女を追って火焔を上げた男が、女の火を叩き消そうとして狂気のようにあせっている。火の玉が三つどもえになって、互いに追っ駈け合っているのであった。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
三人はどもえのようになって、ちょっとは離れられない組合せになっているのがおかしゅうございます。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はたしてどんな駈引かけひきのもとに、目まぐるしい三つどもえの戦法がおこなわれるか、風雲の急なるほど、裾野のなりゆきは、いよいよ予測よそくすべからざるものとなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半作事はんさくじだと言うから、まだ電燈でんきが点かないのだろう。おお、ふたどもえの紋だな。大星だか由良之助ゆらのすけだかで、鼻をく、鬱陶うっとうしい巴の紋も、ここへ来ると、木曾殿の寵愛ちょうあいを思い出させるから奥床しい。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手代の金助と与三郎、伜の伊太郎、それに主人の勘解由までが、四つどもえになってお竹の後を——朝から晩まで、焼き付くような眼で追い廻したのです。
大杉の生涯は革命家の生血なまちしたたる戦闘であったが、同時に二人の女にもつれ合う恋のどもえの一代記でもあった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「埋めある黄金をとりまいて、執念三つどもえ、いや、四つ、五つ巴を描きそうな形勢にござりまする、はい」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「水戸様は館林をかついでいるし、間部まなべは紀州をかつぎ上げている。そこへまた、尾張から引ッ張り出そうとしている連中もあって、三ツどもえに、こんがらかッている」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この怪しむべき囃子の音が、信濃坂を去って、ようやく西にのぼり、ここ武蔵と、相模と、甲斐の国とが、三つどもえに入り込んだ山里のあたりを驚かせているものと見えます。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ああ、二つどもえの紋のだね。」と、つい誘われるように境が言った。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悶々もんもんのうちにも忘れようとしたことであろうが、このつるぎのふたつどもえに関連して、大岡のおの字も思いよらない大膳亮としては、すでに大の乾雲を手にして
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お縫や世之次郎と血で血を洗うようなどもえの醜い争いが始まるに相違ない、かたがた三之助を呼び戻すのは、もう少し待って貰いたいと言う言葉にも理窟があります。
つづいてまたも同じような一そうが漕ぎ寄せて来た。盧はギョッとして見廻すばかり……。何のことはない、三ぞう三ツどもえに、こっちの舟へからみ絡み漕ぎめぐっている按配あんばい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おどろきと喜悦よろこび、つぎにこわい表情が文次の顔にどもえを巻いた。手早く金を袂へ返して、何思ったか走り出そうとしたが、よっぽどあわを食っていたものと見える。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
有史以来、人間はこの三つの煩悩にりたてられて、われも人もこの三慾のためにこそ、孜々営々ししえいえいと生命をけずる歩みをつづけてきたのだ——現世は、名、金、おんなの煩悩三つどもえ
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
火事装束の五人組は、最初からすべてを見守っていたもののように、雲竜一庭に会して二つどもえをえがいているその期をねらって、ああして忽然と現場に割りこんで来たのであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)