左右そう)” の例文
この決死の兵法には、雲霞うんかのように寄せて来ていた、六波羅勢も恐れをなし、左右そうなく門を押し破って、乱人することが出来なかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
故に、万一主人摂津守が釈然しゃくぜんと解けて、左右そうなく降伏に出られた場合は、どうかご助命の儀だけは伏しておねがい申しておく
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、地獄で天女とも思いながら、年は取っても見ず知らぬ御婦人には左右そうのうはものを申しにくい。なれども、いたいけにをあやしてござる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
済度さいどし給わんやとねがいければ上人左右そうなく接引し給い静御前乃振袖ふりそで大谷氏に秘蔵いたせしに一首乃歌をなん書記し給いぬ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
亭主から頼まれたと云って、四十左右そうの遊人風の男が、押込んで来たとき、お島はそう言って応対した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「上首尾にて、判官じきじき、左右そうなく許可になりまして、取るものも取りあえず駈けつけましたが」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
『めんめんもそのごとく、一人いちにんずつの力は弱くとも、たがいにじゅっこんし、志を合わするにおいては、なにとした敵にも左右そう無うとりひしがるることあるまじいぞ……』
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
左右そうもあれ、今日こそはえらい恥をかいたよの、つくづくと思い知らされたわな」と言うた。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
中からは手燭を取って、五十左右そうの総髪の武家、形ばかりの木戸を開けて慇懃に迎えました。
もう一つあなたの特色をげて見ると、普通の画家は画になる所さえ見付ければ、それですぐ筆をります。あなたは左右そうでないようです。あなたの画には必ず解題が付いています。
よって聖人に謁せんと思ふこころつきて、禅室に行て尋申すに、上人左右そうなくいであひたまひけり。すなはち尊顔にむかひたてまつるに、害心たちまちに消滅してあまつさえ後悔の涙禁じがたし。
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
今朝けさもかれはこの路をえらびてたどりぬ。路の半ばに時雨しぐれしめやかに降り来たりて間もなく過ぎ去りしのち左右そうの林の静けさをひとしおに覚え、かれが踏みゆく落ち葉の音のみことごとしく鳴れり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
船涼し左右そうに迎ふる対馬つしま壱岐いき
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
一旦退いた討手の勢はそれと見るより引っ返して再び門に迫ったが左右そうなく討ち入る事もせず同じ場所にたむろして空声からごえばかりを上げるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
多津吉は一度、近々とて、ここへ退いたまま、あやしみながら、みまもりながら、左右そうなく手をつけかねているのである。
「折も折とて天草の乱には、戦に破れた落人おちゅうどどもが、阿波こそ頼るべしとあって、海伝いにおびただしくまぎれこみ、また義伝公は、左右そうなくそれを剣山にかくまわれた」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その態度にドコやら真摯しんしなるものがあって、左右そうなくは手出しのできない気勢に打たれて、そのまま見ているだけのものですから、群集心理の如何いかんによっては、どう形勢が変化しないとも限らず
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうしてようやくそれを出版するだけまとめたのだそうですね。左右そうなればあなたの労力が単独に世間に紹介されるという点において、あなたも満足でしょう、最初勧誘した責任のある私も喜ばしく思います。
この様子では左右そうなくやぶられそうもござりませなんだ。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このお浦さえ抑えていたなら、田沼様といえども憚って、左右そうなく自分を討ちもせず、からめとるようなこともあるまいと、そう思ったからであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
武士は白歯を覗かせてニッとばかりに笑ったが左右そうなく上っても行かないのは黐棹の先が渦巻き渦巻き両眼の間を迂乱うろつくからで、心中ひそかに驚いている。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この道より左右そうなくお通し申し上げては、後日の咎めおそろしく、難儀いたす次第にござります。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
侫臣ねいしんながらも洞院左膳は、さすがは戦場往来の武士、顔に太刀傷さえ受けたほどの武功のもののふのことであれば、豪勇無双の盛常も左右そうなく打ち破って通りも出来ず一月二月三月四月
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)