崩折くづを)” の例文
三郎兵衞は言ふべきことを言つてしまつて、力が盡き果てやうに、平次の掛けて居る石の前、同じやうな捨石にガツクリ崩折くづをれました。
しかし情ないと思つて思ひ崩折くづをれてはゐられなかつた。更に初めから出立して、再びそこに行くことを心懸けねばならなかつた。
心の階段 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そで雪洞ぼんぼりをぴつたりせたが、フツとえるや、よろ/\として、崩折くづをれるさまに、縁側えんがはへ、退しさりかゝるのを、そらなぐれにあふつたすだれが、ばたりとおとして、卷込まきこむがごと姿すがた掻消かきけす。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして、私はなぜか泣き出したいやうな寂しさをおぼえて、ひるまうとする、崩折くづをれようとする自分をさへ見出さずにはゐられなかつた。が、そこで私は自分をむち打ちながら踏みとゞまつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
入替いりかはりて一番手の弓の折は貫一のそびら袈裟掛けさがけに打据ゑければ、起きも得せで、崩折くづをるるを、畳みかけんとするひまに、手元に脱捨ぬぎすてたりし駒下駄こまげたを取るより早く、彼のおもてを望みて投げたるが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
弥撒ミサを行ふ間は、わが心自づと強く、身もしまつて、尊い葡萄酒のかゞやきは眼に満ちわたり、聖なる御油みあぶらに思も潤ふが、このわが廊堂の人げない処へ来ると、此世のつかれ崩折くづをれて、くゞまるともかまひない。
法王の祈祷 (新字旧仮名) / マルセル・シュウォッブ(著)
お縫は柱の下に崩折くづをれました。それをチラリと振り向いた門太郎は、思ひ直した樣子で庭木戸から外へ出て行つてしまひます。
彼の階子はしごを下り行くとひとしく貴婦人は再びグラスを取りて、葉越はごしの面影を望みしが、一目見るより漸含さしぐむ涙に曇らされて、たちま文色あいろも分かずなりぬ。彼は静無しどなく椅子に崩折くづをれて、ほしいままに泣乱したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お輝の照代は、そのまゝ力がきて、ヘタヘタと、碎かれた人形のやうに、娘お幾の燃えるやうな茜裏あかねうらの布團の上に崩折くづをれてしまひました。
お國は氣が遠くなつたやうに其處へ崩折くづをれると何に驚いたか、寢付いたばかりの新太郎は、火の付くやうに泣き出しました。
入つて來たのは乳母ばあやのお霜でした。平次の顏を見ると、いきなり疊へ崩折くづをれて、赤ん坊のやうにシクシク泣き始めたのです。
離屋はなれの一と間で、誰とも知れぬ者の手で、胸を一とゑぐり、聲も立てずに死んだのでせう。縁側に崩折くづをれたまゝ、血汐の中に息が絶えて居りました。
これではならぬと——滿身の力を兩のこぶしにこめ、兩眼を見開いて氣を勵ましましたが、泥醉した人のやうに崩折くづをれて、その努力も永くは續きません。
ヘタヘタと崩折くづをれたところを見ると、長い間の不養生にむしばまれて、此女の肉體は見る蔭もない哀れなものです。
新助はすつかり恐入ると急に背中の傷が痛み出したらしく、縛られたまゝ疊の上へ崩折くづをれました。
平次の論告の前に、主人孫右衞門は、床の上へ、ヘタヘタと崩折くづをれました。これが起き出して、窓から曲者を引入れたとは思へないほどの、朽木くちきのやうな哀れな姿です。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
疊の上に崩折くづをれた死骸も、不斷着の着流しのまゝ、引き起して見ると、胸から顏へかけての凄まじい斑點、横井源太郎と同じく、南蠻物の毒による毒死に間違ひもありません。
何時の間にやら彦兵衞は、朝の大地の上に崩折くづをれて、錢形平次を拜んでゐたのです。
お萬が案内してくれたのは、たつた二た間の次の部屋、床は敷いてありますが、それを隅の方に押しつくねて、古い疊の上に、五十男の伊八が、ボロきれのやうに崩折くづをれて居るのです。
彦兵衞は崩折くづをれました。合せた手があごの下に、涙に濡れてワナワナと顫へます。
お篠はガラリと調子を變へると、崩折くづをれるやうに其處に坐つてしまひました。
お照は平次の前へ崩折くづをれました、華奢で品の良い娘ですが、前掛を外して濡れた手を拭くと——その手だけが、顏にも身輕にも似ず、痛々しく水仕事に荒れて、妙に八五郎の感傷をそゝります。
もう一度さういつて、橋の上に崩折くづをれた男の首根つこを押へました。
藤左衞門はよろ/\と崩折くづをれて、鳩谷小八郎にたすけられました。
お秀は自分の手を後ろに廻して崩折くづをれるのでした。