山査子さんざし)” の例文
日の出だ! 大きく盆のようなのが、黒々と見ゆる山査子さんざしの枝に縦横たてよこ断截たちきられて血潮のようにくれないに、今日も大方熱い事であろう。
百合ゆり山査子さんざしの匂いとだけ判って、あとは私の嗅覚きゅうかくに慣れない、何の花とも判らない強い薬性の匂いが入れ混って鬱然うつぜん刺戟しげきする。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だが、何と猿廻しの素早いことか、こんもり盛り上っている山査子さんざしむらの、丘のように高い裾を巡って、もう彼方むこうへ走っていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は私の足許にまで延びてゐる、擦り切れた、艶のある葉によつて、もうすつかり花の落ちつくした山査子さんざしの茂みを認めた。
続プルウスト雑記 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
街は夕方に向つて散歩する露支人の雑沓を増し、露西亜娘が辻辻でリラや「ねぢあやめ」の花を売り、支那の少年が砂糖煮の山査子さんざしを売るのに客を呼んでゐる。
ひいらぎ蕁麻いらぐさ山査子さんざし野薔薇のばらあざみや気短かないばらなどと戦わなければならなかった。非常な掻傷そうしょうを受けた。
そこには私の意匠した縁台が、縁側と同じ高さに、三尺ばかりも庭のほうへ造り足してあって、らん山査子さんざしなどの植木ばちを片すみのほうに置けるだけのゆとりはある。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、ところどころへ、罌粟けし山査子さんざしの実、黄色いたんぽぽをぱっとあしらう。マチルドと区別をするためだ。彼は、笑いたくない。で、三人とも、それぞれ大真面目おおまじめである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
細い山査子さんざしの花が、畝の厚い縮緬皺の葉の中から、珊瑚に似た妖艶な色を浮べているのを矢代はじっと見ていると、傍の千鶴子もだんだん花そのもののように見えて来るのだった。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
茯苓ぶくりょう肉桂にっけい枳穀きこく山査子さんざし呉茱萸ごしゅゆ川芎せんきゅう知母ちぼ人参にんじん茴香ういきょう天門冬てんもんとう芥子からし、イモント、フナハラ、ジキタリス——幾百千種とも数知れぬ薬草の繁る中を、八幡やわた知らずにさ迷い歩いた末
うなぎ、うなぎ、鰻つかみて春団治 歩む高座に山査子さんざしのちる
初代桂春団治研究 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
その木立に一本の山査子さんざしがまたとなっていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
花の山査子さんざし百合ゆりみたよう。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
ぶるぶるとしてハッと気が付くと、隊の伍長のヤーコウレフが黒眼勝のやさしい眼で山査子さんざしあいだからじっ此方こちらを覗いている光景ようす
山査子さんざしの藪の中から、その左門の姿を恐ろしそうに見送っているのは二人の武士であった。片眼をつぶされた紋太郎と、片耳を落とされた角右衛門とであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茯苓ふくりやう肉桂にくけい枳殼きこく山査子さんざし呉茱萸ごしゆゆ川芎せんきう知母ちぼ人蔘にんじん茴香ういきやう天門冬てんもんとう芥子からし、イモント、フナハラ、ジキタリス——幾百千種とも數知れぬ藥草の繁る中を、八幡知らずにさ迷ひ歩いた末
樹間をぬけ日のよくあたる広場へ出ると、またそこには一面の山査子さんざしだった。初めは人に気附かせぬ花である。しかし、一度びはっと人を打つと、心をずるずる崩してしまわねばやまぬ花だった。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
5 バルベックに近い山査子さんざしの籬。(同右☆☆)
続プルウスト雑記 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
ああ、春楡はるにれ山査子さんざし白樺しらかんば
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
山査子さんざしの咲く古い借家に。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
眼に見えるようなは其而已そればかりでなく、其時ふッと気が付くと、森の殆ど出端ではずれ蓊鬱こんもり生茂はえしげった山査子さんざしの中に、るわい、敵が。大きな食肥くらいふとッた奴であった。
と云いながら庄三郎の袖を引き山査子さんざしの茂みへ引っ張り込んだ。庄三郎は胆を潰し
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山査子さんざしだとか、リラだとか、睡蓮だとか……
フローラとフォーナ (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)