山径やまみち)” の例文
一条ひとすぢ山径やまみち草深くして、昨夕ゆうべの露なほ葉上はのうへにのこり、かゝぐるもすそ湿れがちに、峡々はざま/\を越えて行けば、昔遊むかしあそびの跡歴々として尋ぬべし。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その日も彼は女を背負って峠のあちら側の山径やまみちを登ったのでした。その日も幸せで一ぱいでしたが、今日の幸せはさらに豊かなものでした。
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
『郡村誌』は利根川の西岸から小烏帽子岳の麓を繞って越後への山径やまみちがあって、謙信馬返し岩というのがあると記している。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あのときはとうのステッキにすがるようにして、宿屋の裏の山径やまみちなどへ散歩に行くと、一日ごとに、そこいらをうずめている落葉の量が増える一方で
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
行手のけわしい山径やまみちを越えなければならないかと思うと、急に背中の荷物が重味を増して来て、稍々ややともすると荘重な華麗な声調を要する筈の唱歌が震えて絶え入りそうになったが
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
貸馬に乗って、ある高原を横断した時、視界の悪い山径やまみちから、突然ひらけた場所に出た。そこは右側が草山になり、左側は低く谷底となり、盆地がひろがり、彼方に小さな湖が見える。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そこで、その村の者は、監獄へ行くか、餓えるかという二つの道のどちらかを取るようにしいられた。小倉の生まれた村の小径こみちとも、谷川ともわからない山径やまみちは、監獄の方へ続いていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
たふげうちこし四里山径やまみち隆崛りうくつして数武すぶ平坦へいたんの路をふま浅貝あさかひといふえき宿やどなほ二居嶺ふたゐたふげ(二リ半)をこえ三俣みつまたといふ山駅さんえきに宿し、芝原嶺しばはらたふげを下り湯沢ゆさはいたらんとするみちにてはるか一楹いちえい茶店さてんを見る。
当然閑院宮かんいんのみや別邸前の山径やまみちを辿ることになり、同時に、小田原城の下を通るトンネルから汽車のでてくる線路に沿うて歩くことになるのである。
復員殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そうして私は自分の気持をそのどちらにも片づけることが出来ずに、自分で自分を持て余しながら、かれこれ一時間近くもその山径やまみちをさまよっていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
旅人の行きなやむてふ小仏の峰に近きところより右に折れて、数里の山径やまみちもむかしにあらで腕車わんしやのかけ声すさまじく、月のなき桑野原、七年の夢をうつゝにくりかへして
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たふげうちこし四里山径やまみち隆崛りうくつして数武すぶ平坦へいたんの路をふま浅貝あさかひといふえき宿やどなほ二居嶺ふたゐたふげ(二リ半)をこえ三俣みつまたといふ山駅さんえきに宿し、芝原嶺しばはらたふげを下り湯沢ゆさはいたらんとするみちにてはるか一楹いちえい茶店さてんを見る。
石巻から出発して渡波ワタノハ港、ここが牡鹿半島の南側のノドクビに当るところだ。自動車は山径やまみちを湾にそうてグルグルと迂回しつつ半島を南下する。
実際私自身にもこんな風に私たちの歩いている山径やまみちの見当がちょっと付きかねていたのだけれど、私はわざとそれを冗談じょうだんのように言いまぎらわせていたのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
このあたりの名寺なる東禅寺は境広く、樹古く、陰欝として深山しんざんに入るのおもひあらしむ。この境内に一条の山径やまみちあり、高輪たかなわより二本榎に通ず、近きをえらむもの、こゝを往還することゝなれり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
信長は京都、堺を見物していたが、雨降りの払暁、にわかに出立、昼夜兼行二十七里の山径やまみちをブッとばして帰城した。この理由も、家来の誰にも分らない。
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「どうしてこんなに変っちゃったんだろうなあ。あんなに私に何もかも任せ切っていたように見えたのに……」と私は考えあぐねたような恰好かっこうで、だんだん裸根のごろごろし出して来た狭い山径やまみち
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼の家は更にそこから七里ほどバスで山径やまみちを走らねばならぬ。然しともかくこの田舎町は彼の村から最も近い都会であり、村人の買い物はおおむねこの町を利用し、間に合せる。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
急いで山径やまみちを下りはじめた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
禅僧のたどたどしい足どりがそれでも十間ぐらいの距離まで旅人に近づいた時のことだが、旅人は九十九折つづらおり山径やまみちのとある曲路にさしかかった。一方は山の岩肌、一方は谷だ。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
鉱石を駅まで十里の山径やまみちを運びださなきゃならないのさ。その運賃で赤字なのだ。鉱石をきりだしてるのは海岸なんだぜ。港をつくりゃ、もうかるのさ。大きな港じゃないんだ。
街はふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)