屈辱くつじょく)” の例文
私は、応召以来、佐鎮さちんの各海兵団や佐世保通信隊や指宿いぶすき航空隊で、兵隊として過ごして来た。さまざまの屈辱くつじょくの記憶は、なお胸に生々しい。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
老婆を投げ倒した素戔嗚すさのおは、涙に濡れた顔をしかめたまま、とらのように身を起した。彼の心はその瞬間、嫉妬と憤怒ふんぬ屈辱くつじょくとの煮え返っている坩堝るつぼであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なやましいばかりの羞恥しゅうちと、人に屈辱くつじょくあたえるきりで、なんやくにも立たぬかたばかりの手続てつづきをいきどお気持きもち、そのかげからおどりあがらんばかりのよろこびが、かれの心をつらぬいた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
めて来なければ芸道の真諦しんたい悟入ごにゅうすることはむずかしい彼女は従来甘やかされて来た他人に求むるところはこくで自分は苦労も屈辱くつじょくも知らなかった誰も彼女の高慢こうまんの鼻を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それが彼の醜悪しゅうあく屈辱くつじょくの過去の記憶を、浄化じょうかするであろうと、彼は信じたのであった。彼は自分のことを、「空想と現実とのいたましき戦いをたたかう勇士ではあるまいか」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
いかなる困難こんなんとも戦って、あくまで目的に進むというとうとい精神があります。その精神がことごとにあらわれますから、当時の滞仏士官たいふつしかんも、さほどの屈辱くつじょくを受けずにすみました。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
凱旋門がいせんもんをばあれほど高く、あれほど大きく、打仰うちあおごうとするには、ぜひともその下で、乱入した独逸ドイツ人が、シュッベルトの進行曲を奏したという、屈辱くつじょくの歴史を思返す必要がある。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
続いてにぎやかに笑う声に追われるように逃げ出した澤は、屈辱くつじょくの念にえられなかった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
愚かな屈辱くつじょく……ところが今日は人見がおたけを意識しながら彼の演説の真似をしたりするのを見ると、あるいまわしい羨望せんぼうの代りに唾棄だきすべき奴だと思わずにはいられなくなっていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
屈辱くつじょくの思いにひかれ、ベッドの上から、紅いセエム革の手帳を、わしづかみにし、一気に、階段をとんであがり、誰もいない、Cデッキのかげに行ってから、思いッきり手帳をとおくに投げつけました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
いかなる屈辱くつじょくにも忍んで、即座に、浜松どの(徳川)の御意に従い、他日の力を養いおいて、やがて徳川軍が、大挙、大坂表へ攻め上る日には、その先鋒せんぽううけたまわって、いささかの功を挙げ、もって
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
康頼 あゝ、わしがあの時に受けた屈辱くつじょくを思えば胸が悪くなる!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「御当家は、武門をお捨てになる覚悟か。屈辱くつじょくだ。恥を知れ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)