小舟おぶね)” の例文
いまも遠きわたりよりることを忘れず、好みて姫が住める部屋の窓のもとに小舟おぶねつなぎて、夜も枯草のうちに眠れり
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
傾く月の道見えて、明けぬ暮れぬとゆく道の、末はいつくと遠江とおとうみ、浜名の橋の夕潮に、引く人もなき捨て小舟おぶね
ちょうど寄辺よるべなぎさの小舟おぶねとでも言いたい無気力なこころもちにつつまれる朝夕、栄三郎は何度となく万事を棄てて仏門へでも入りたく思ったのだが。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かく思い定めたれども、渠の良心はけっしてこれをゆるさざりき。渠の心は激動して、渠の身は波にゆらるる小舟おぶねのごとく、安んじかねて行きつ、もどりつ、塀ぎわに低徊ていかいせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
荒浪の上にまるるたななし小舟おぶねのあわや傾覆くつがえらん風情、さすが覚悟を極めたりしもまた今さらにおもわれて、一期の大事死生の岐路ちまたと八万四千の身の毛よだたせ牙みしめてまなこみは
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
風聞にれば総角そうかくの頃に早く怙恃こじうしない、寄辺渚よるべなぎさたななし小舟おぶねでは無く宿無小僧となり、彼処あすこ親戚しんせき此処ここ知己しるべと流れ渡ッている内、かつて侍奉公までした事が有るといいイヤ無いという
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
世の中はつねにもがもななぎさ漕ぐ海人あま小舟おぶねの綱手かなしも
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かぢもなき 銀の 小舟おぶね、ああ
秋の瞳 (新字旧仮名) / 八木重吉(著)
おきほうには小舟おぶねが續いている。
巨勢はぬぎたる夏外套なつがいとうを少女にせて小舟おぶねに乗らせ、われはかい取りて漕出こぎいでぬ。雨は歇みたれど、天なほ曇りたるに、暮色は早く岸のあなたに来ぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蘆間あしま小舟おぶねともづなを解きて、老夫おじはわれをかかえて乗せたり。一緒ならではと、しばしむずかりたれど、めまいのすればとて乗りたまわず、さらばとのたまうはしにさおを立てぬ。船は出でつ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世の中はつねにもがもななぎさ海人あま小舟おぶね綱手つなでかなしも
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
こと葉かけたまはぬにて、おのれを嫌ひ玉ふと知り、はてはみづから避くるやうになりしが、いまも遠きわたりよりることを忘れず、好みて姫が住める部屋の窓の下に小舟おぶねつなぎて
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
蘆間あしま小舟おぶねともづなを解きて、老夫おじはわれをかかへて乗せたり。一緒いつしよならではと、しばしむづかりたれど、めまひのすればとて乗りたまはず、さらばとのたまふはしにさおを立てぬ。船はでつ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)