小川町おがわまち)” の例文
わたしは日本橋区の通油町とおりあぶらちょうというところから神田小川町おがわまち竹柏園ちくはくえん稽古けいこに通うのに、この静な通りを歩いて、この黒い門を見て過ぎた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私はさっきから少年と肩を並べて駿河台するがだい下のヴァローダ商会から、小川町おがわまちの方へと灯のまばゆい電車通りを歩いていたのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
神保町じんぼうちょうから小川町おがわまちの方へ行く途中で荷馬車のまわりに人だかりがしていた。馬が倒れたのを今引起こしたところであるらしい。
断片(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小川町おがわまち紙凧たこ屋、凧八で十文で買ったからす凧。けさ早くから二番原へやってきて、夢中になって凧あげをしている。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
神田小川町おがわまちの通にも私が一橋ひとつばしの中学校へ通う頃には大きな銀杏が煙草屋たばこやの屋根をつらぬいて電信柱よりも高くそびえていた。
いつか小川町おがわまちの広い電車通りへ出て来て、そこから神保町の方嚮ほうこうへと歩くのだったが、その辺は不断通っていると、別に何の感じもないのだったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
四組に分かれて屯していたのですが、髪切りの一件がおこったのは神田小川町おがわまちの屯所で、第三番隊というのでした。
又、小川町おがわまちの乗換場で降りて、その辺のみすぼらしいカフェに這入はいり、一杯ずつお茶を命じる様なこともあった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
フォックスのレコードが来たのは震災直後で、阿南あなみ商会が輸入して小川町おがわまちのフランス書院で売っていた。
二人の意見がなかなか近寄って来なかった。そこを出て大手町から小川町おがわまちの方へ歩いて行く間も、なお論じ続けた。日ごろになく木下が興奮しているように思えた。
享楽人 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ト高い男は顔に似気にげなく微笑を含み、さて失敬の挨拶あいさつも手軽るく、別れて独り小川町おがわまちの方へ参る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おれが寝るときにとんと尻持をつくのは小供の時からのくせだ。わるい癖だと云って小川町おがわまちの下宿に居た時分、二階下に居た法律学校の書生が苦情を持ちんだ事がある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
純一が小川町おがわまちの方へ一人で歩き出すと、背後うしろ大股おおまたに靴で歩いて来る人のあるのに気が附いた。振り返って見れば、さっき大村という名刺をくれた医科の学生であった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
明日はちょうど一月に一度あるお君さんの休日やすみびだから、午後六時に小川町おがわまちの電車停留場で落合って、それから芝浦しばうらにかかっている伊太利人イタリイじんのサアカスを見に行こうと云うのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勘「ムヽ、カ、カ、神田のまき様の部屋でんしまして、小川町おがわまち土屋つちやの……」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
手を切りそうな五円札を一重ねに折りかえして銅貨と一緒に財布へ押しこんだのをふところに入れて、神保町じんぼうちょうから小川町おがわまちをしばらくあちこち歩いていた。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
津軽家の上屋敷が神田小川町おがわまちから本所に徙されたのは、元禄元年で、信政の時代である。貞固は巳の刻の大鼓を聞くと、津軽家の留守居役所に出勤して事務を処理する。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「……渡辺の家は神田の小川町おがわまち。……衣類のある場所は『かはかつや』……。たぶん、質屋か古着屋ででもあるのだろう。『かはかつや』は川勝屋とでも書くのだろうか」
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
はかない自分、はかない制限リミテッドされた頭脳ヘッドで、よくも己惚うぬぼれて、あんな断言が出来たものだ、と斯う思うと、賤しいとも浅猿あさましいとも云いようなく腹が立つ。で、ある時小川町おがわまちを散歩したと思い給え。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
家屋敷いえやしきはある人の周旋しゅうせんである金満家に譲った。この方は大分金になったようだが、くわしい事は一向知らぬ。おれは一ヶ月以前から、しばらく前途の方向のつくまで神田の小川町おがわまちへ下宿していた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久「今は小川町おがわまちの上屋敷に居ります」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は猿楽町さるがくちょうから神保町じんぼうちょうの通りへ出て、小川町おがわまちの方へ曲りました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小川町おがわまち勧工場かんこうばで。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)