宿業しゅくごう)” の例文
これというのもひとえに先きの世の宿業しゅくごうである。若し怨恨を結ぶ時にはそのあだというものは幾世かけて尽きるということのないものだ。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夫婦は、おもわず「……お願いします。来世はどうか、こんな宿業しゅくごうの深い親の仲で生れて来ずに、倖せな子に生れますように」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生きながら魔道へ引き摺られてゆく阿闍梨の浅ましい宿業しゅくごうを悼むと共に、千枝太郎は自分のお師匠さまの眼力の高く尊いのをいよいよ感嘆した。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宿業しゅくごうという言葉は、どういう意味だか、よく知りませんけれど、でもそれに近いものを自身に感じています。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
そんな魔性の力——なんなら運命とでも宿業しゅくごうとでも、因縁とでも応報とでも、すき勝手な名で呼ぶがいい。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
が、由来宿業しゅくごうとして情とあだと手のうらかえす雪女郎は、東雲しののめの頃の極寒に、その気色たちまち変って、こぶしを上げて、戸をあおり、ひさしたたき、褄を飛ばして棟をた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして! その屍山しざん血河けっかをへだてて、宿業しゅくごうにつながる二つの刀が、慕いあってすすり泣く……!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これも前世の遊女にてあるべき宿業しゅくごうはべりけるやらん、露の身のしばしの程をわたらんとて仏の大いにいましめ給へるわざをするかな、我が身一つの罪はせめていかゞせん
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
殺そうとした。崇峻が殺されたのは、宿業しゅくごうの報いであると、聖徳太子は判断したのである。
生涯しょうがいをつくして顕現された——そこに宿業しゅくごうのごとき強烈さを私は感ずるのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
あわれは、あわれじゃ——が、これが、宿業しゅくごう——因果——と、申すもの。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これも唯、先の世の宿業しゅくごうと口惜しく思います。しかし、弓矢とる身の常として、同じ弓矢の道の敵の手に渡って殺されることは、決して恥とは思いませぬ。この上は一日も早く首をはねて頂きたい
素直にというのは自分の魂の本然ほんねんの願いに従う事です。人間の魂は善を慕うのが自然です。しかし宿業しゅくごうの力に妨げられて、その願いを満たす事ができないのです。私たちは罰せられているのです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
親鸞はこの事を明らかにするために「善悪の宿業しゅくごう」を熱心に説いた——よきこころの起こるも、あしき心の起こるも、すべて宿業のゆえである。「人」はこの「業」によって善へも悪へも導かれる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この身とて、今は法師にて、鳥も魚もおそわねど、むかしおもえば身も世もあらぬ。ああ罪業ざいごうのこのからだ、夜毎よごと夜毎の夢とては、同じく夜叉の業をなす。宿業しゅくごうの恐ろしさ、ただただあきるるばかりなのじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかも、火の雨の下、黒けむりのうち、時こそと、おどる者は、これまた、藤原氏の栄花と宿業しゅくごうをともにして生息する地下の群盗であった。
本当のことを申しますと、人間というものは、決して病気で命を落すものでございません、みんな寿命でございます、前世の宿業しゅくごうというものでございます。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あるのだ、けれども、それを一目見たものは、たちまち自分のようにこんな地獄に落ちるのだ、自分には前世から、何か気味悪い宿業しゅくごうのようなものがあったのかも知れない
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
宿業しゅくごうと言おうか——それとも運気うんき
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ひとでなしでなければ出来ない。そしてまた、これからかかって来るであろう一生の仕事もまた、ひとでなしでなければ出来ない。それが尊氏の宿業しゅくごうなのだ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにしても、あの発狂者きちがいはどうなされた、ほんとうにお気の毒なのはあの方でございますが、これも前世の宿業しゅくごうの致すところでございましょう、おあきらめ下さいまし。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
作家としての、悪い宿業しゅくごうが、多少でも、美しいものを見せられた時、それをそのまま拱手きょうしゅ観賞していることが出来ず、つい腕を伸ばして、べたべた野蛮の油手をしるしてしまうのである。
盲人独笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……ああ、やがて次代に、そんな子がどう成人してゆき、またどんな宿業しゅくごうを課せられた人となって行くのか。思えば、おもしろい宇宙だ。いや不思議きわまるものだ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、人間と生れた宿業しゅくごうの尽きぬうちは、いやでも天はあなたを地上で使い切るでしょう。梁山泊は賊の巣窟そうくつとのみお考えのようだが、これなん天罡星てんこうせいの集まりです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天罡星てんこうせい地煞星ちさつせい、百八星の宿業しゅくごうを、地上のまたたきとして見る日も近いかとながめられる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そも前世の宿業しゅくごうにや、林冲、罪のおぼえもなきに、この獄地に流され、かくのごとき、生ける醜骸しゅうがいとなっております。あわれ、なにとぞご加護あらしめたまえ。遠き都にあるわが妻を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「が、われらは是非もない。これや宿業しゅくごうだ。したが、何も知らぬ其許そこたちこそ、世の大波に、さぞやき目を見つらんと、ひそかに案じておった。さるを、なぜ洛中を出て、戦場などへ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿業しゅくごうだなんていっていられない、人間愚だ、人間のばかさである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間が、穴に相寄り、部落をつくり、社会のかたちを持ってから、ついに、そのわざわいの大を、またおろかさも、知性にわかりきっていながら、なおやめるにやめられないでいるすさまじい宿業しゅくごうの修羅。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るなども、仏法でいう、先世せんぜ宿業しゅくごうとやらでございましょうか
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「怖ろしい輪廻りんねか、宿業しゅくごうか」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)