なまめか)” の例文
行先ゆくさきあんじられて、われにもあらずしよんぼりと、たゝずんではひりもやらぬ、なまめかしい最明寺殿さいみやうじどのを、つてせうれて、舁据かきすゑるやうに圍爐裏ゐろりまへ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あわれ、茄子なす、二ツ、その前歯に、鉄漿かねを含ませたらばとばかり、たとえんかたなく﨟長ろうたけて、初々しく且つなまめかしい、唇を一目見るより、と外套の襟を落した。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なまめかしさ、というといえども、お米はおじさんの介添のみ、心にも留めなそうだが、人妻なればはばかられる。そこで、くだんの昼提灯を持直すと、柄の方を向うへ出した。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒縮緬くろちりめん紋着もんつきかさねて、霞を腰に、前へすらりと結んだ姿は、あたかもし、小児こどもの丈にすそいて、振袖長く、影も三尺、左右に水が垂れるばかり、その不思議ななまめかしさは
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただしなまめかしさは少なくなって、いくらか気韻が高く見えるが、それだけに品が可い。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
踊が上手うまい、声もよし、三味線さみせんはおもて芸、下方したかたも、笛まで出来る。しかるに芸人の自覚といった事が少しもない。顔だちも目についたが、色っぽく見えない処へ、なまめかしさなどはもなかった。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はい。」となまめかしい声、婦人おんなが、看板をつけたのであった、古市組合。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人は蒲団ふとんに居直り、薄い膝に両手をちゃんと、なまめかしいが威儀正しく
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その取乱したふりの、あわただしいうちにも、なまめかしさは、姿の見えかくれる榎の根の荘厳に感じらるるのさえ、かえって露草の根の糸の、細く、やさしくそよもつれるように思わせつつ、堂の縁を往来ゆききした。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)