いか)” の例文
わらははな、近ごろいかい苦労をしておぢやつた。それ、お前も存じよりの黒谷の加門様の妹娘のことぢやが、あの娘が気がふれてな。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
『久太、鮒とはやと取り替えっこしようか?』と私がからかいました。『うがす。鮒一尾と同じいかさのはや三尾と取り替えべえ』
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
爺どのが、待たっしゃい、鶴谷様のお使いで、綿をいかいこと買うて来たが、醤油樽や石油缶の下積になっては悪かんべいと、上荷に積んであるもんだ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
埿部は波志毘登ハシビトなるを、本にハセツカベと訓みて、傍に「丈部」と書けるはいみじきひがことなり。丈部はせつかべとはいかく異なるをや、天武紀などに見えたる姓の埿部も同じ。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「源さのいかくなったには、わし魂消たまげた。全然まるで、見違えるように。しかし、おめえには少許ちっとていねえだに」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いか御恩ごおんかうむりましたに、いざおいへが、ところには、ろく暑寒見舞しよかんみまひにも御伺おうかゞひいたしません。手前てまへ不都合ふつがふ料簡方れうけんがたと、おいへばちで、體裁ていさいでございます、へい。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「繁華でがんすとも。銀座でも日本橋でもはやあ話が此処の呉服町を広くして家をいかくしたようなもんさ。賑かなは人通りがしげいからでがんすよ。些っとも驚くことじゃねやあ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
古い家じゃが名代なだいで。せんには大きな女郎屋じゃったのが、旅籠屋になったがな、部屋々々も昔風そのままなうちじゃに、奥座敷の欄干てすりの外が、海と一所の、いか揖斐いび川口かわぐちじゃ。白帆の船も通りますわ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)